ITがスポーツに革命を起こす、サッカーにおけるデータ活用の可能性…スポーツバイオメカニクスの専門家、JISS 尾崎氏に聞く

サッカー界におけるデータ分析の可能性を、国立スポーツ科学センター(JISS)スポーツ科学部の研究員でスポーツバイオメカニクスを専門とする尾崎宏樹氏に聞いた。


サッカーは、データをどう活用できるのか。サッカー界におけるデータ分析の可能性を、国立スポーツ科学センター(JISS)スポーツ科学部の研究員でスポーツバイオメカニクスを専門とする尾崎宏樹氏に聞いた。

スポーツの世界では、データを生かす動きが盛んになっている。世界各国で、データ分析部門への投資が行われ、その競争が激化することで、さらなる発展を遂げ、高度なストラテジーを生み出している。

その中でも、サッカーは、データで測りきれない動きが多く複雑であるがゆえに、野球などに比べてデータ活用が難しいといわれてきた。

公式記録では、両チームのメンバーリスト、シュート数、ゴールキック数、コーナーキック数、フリーキック数、オフサイド数、ペナルティ数といったプレーの回数が記録される。一方、サッカーは、22人が同時に動きまわり、ボールを保持する選手とボールには直接的に関与しない選手が、複雑で緻密な動きを取り合うことで、連携プレーを生み出し、得点に結びつけるスポーツである。そのため、公式記録のような簡易的な定量データだけでは、試合の勝敗を決めるような戦術を描くことが難しいというものだ。

こうした中、2014年ブラジルで開催されたサッカーワールドカップ(W杯)において、ドイツ代表が膨大なデータと、そのデータ分析によって、監督やトレーナーを含めたコーチングスタッフがデータを活かすことで、成功をおさめたのは記憶に新しい。

ドイツの勝利を支えたのが、ERP(統合基幹業務システム)で世界最大手のIT企業SAPである。SAPとドイツサッカー協会は、データ分析システムを共同開発し、得失点はもちろん、試合中のプレーシーンを記録して分析することで、データを活用したプレーを実現した。

**ドイツでは、国民的スポーツでもあったサッカーを、ラジオできめ細やかに放送してきた歴史がある。ドイツの凄いところは、テレビ放送の登場後も、伝え手は視覚情報に頼らず、聴覚情報のきめ細やかさが損なわれることがなかったことだ。寧ろ、テレビの登場によって、従来の情報量に視覚情報が付与されることでより高度な情報提供のプラットフォームが確立されていった。**(尾崎氏)

サッカー界におけるデータ分析の先進国、ドイツ。この背景には、ナチス・ドイツにおいて、一般国民へのプロバカンダの手段として、ラジオが大量生産・低価格販売されて普及し、放送技術を高度化したことがあるという。

**膨大なデータの中から重要な要素を見つけ出し、選手やコーチングスタッフにその意味を理解してもらえるように、指導言語に翻訳して伝える役割がますます重要になってくる。**(尾崎氏)

サッカーには、野球のセイバーメトリクスような、データ分析に用いることのできる確立された指標がまだない。選手のパスやスプリント数、イベントが起こった位置などのデータを、どのような戦術で行われたのか、チームの方針に従って行われたのかといった視点で解釈し、その結果を翻訳することで、選手やコーチングスタッフに次の戦術立案のためのエビデンス(根拠)を伝える。サッカーはまずここから取り組まなければならない。こうした積み重ねを経て、サッカーでも試合のデータから戦術の達成度や効果を測ったり、選手の年俸を決める上での重要なファクターとして活用されたりするようになるだろう。

収集したデータを活用したデータ分析が、どこまでスポーツの勝敗に関与することができるのかーーーそれはいま未知数であるが、今後、テクノロジーの進化に伴い、この分野がさらなる発展を遂げることは間違いない。AIを活用すれば、勝つために何をすべきかをコンピュータが教えてくれる時代がくる。しかし、コンピュータは因果関係、つまりなぜそうしたら勝てるかまでは教えてくれない。ヒトがこの因果関係についてよく考えることなしにAIを活用するとスポーツはコンピュータのものとなってしまうのではないか。選手と選手、選手とコーチングスタッフが、属人的に所有していた経験やノウハウに、データという息吹を吹き込むことで、スポーツは新たな局面を迎えることだろう。しかし、スポーツは、最後にはヒトの判断が大きく影響するものであってほしい。