Day1からゼロイチを共に創る…インキュベイトファンド村田氏による投資の極意

今回Pedia Newsでは、キャピタリストとコントローラーの二足のワラジを履く投資家である、インキュベイトファンド代表パートナーである村田祐介氏に、これまでの経験をもとに村田氏の考える投資家像についてインタビューを実施した。

起業家と投資家は両輪の関係にあるといわれる。
そして投資家の中でも、投資をはじめフロント業務を担当するキャピタリストとミドルバックオフィス業務を担当するコントローラーもまた両輪の関係にあるといわれる。(参照記事:「キャピタリストを支えるプロフェッショナル」…WMFA代表取締役山本氏による「ベンチャーキャピタルのミドルバックオフィス」

今回Pedia Newsでは、キャピタリストとコントローラーの二足のワラジを履く投資家である、インキュベイトファンド代表パートナーである村田祐介氏に、これまでの経験をもとに村田氏の考える投資家像についてインタビューを実施した。

##### インキュベイトファンド 代表パートナー 村田祐介氏
1980年生まれ。1999年にエンタープライズソフトベンダーに創業参画し金融機関向けオンラインサービス・ソフトウェアの開発業務に従事。2003年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現:大和企業投資)入社。主にネット・モバイル関連企業の投資育成業務及びファンド組成管理業務に従事。2009年より同社投資第6グループのグループマネージャーに就任し約70 億円のポートフォリオを担当。2010年インキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。メディア・ゲーム関連領域を中心とした投資・インキュベーション活動を行うほか、ファンドマネジメント業務を主幹。また2015年に一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部長兼ファンドエコシステム委員会委員長就任。

ー キャピタリストとコントローラーの二つの側面をお持ちですが、どのようなことがキッカケでコントローラーをすることになりましたか。

**村田祐介氏(以下、村田氏)** :

**いつかベンチャーキャピタルとして独立したい** 、そう考えていたことが大きいですね。インキュベイトファンドとして独立する以前、エヌ・アイ・エフベンチャーズ(以下NIF)で丸7年間ベンチャーキャピタル業務にたずさわり、最後の2年間はネットベンチャー投資の責任者をつとめました。その間「投資部にいながら全部署の事業を経験したい」と懇願し、フロント業務と並行してミドルバックオフィス業務も経験したことがキッカケでした。

**「ベンチャーキャピタルに必要なバリューチェーン全てを経験する。」**ひとりのベンチャーキャピタリストとして、フロント業務だけではなくミドルバックオフィス業務も重要なものと考えているからこそ、自ら率先してキャピタリストをしながらもコントローラーを経験しました。

ー インキュベイトファンドの設立当初、コントローラー業務をお一人で担当なさっていたとお伺いしました。

**村田氏**:

**設立当初、パートナー4人のみの体制だったこともあり、「得意なものを得意な人が役割分担しよう」という話になりました。**そこで、これまでの前職での経験をいかしてミドルバックオフィス業務を担当しました。

**フロント業務は4人で投資してパフォーマンスを出すが、そのミドルバックオフィス業務は4人分全てを1人で担当するということで大分偏った体制でしたが(笑)**、今ではインキュベイトファンドにコントローラーを専属で担当するメンバーもいるので、だいぶラクになりましたね(笑)。

ー そうだったのですね。この先は、キャピタリストの側面に注目してお話をお伺いします。直近のポートフォリオ(投資先企業)を教えてください。

**村田氏**:

**少し前まではゲーム関連企業が多かったですが、最近ではメディア企業が多いですね。**

僕の最初のメディア投資は、インキュベイトファンド設立前のNIF時代に投資させて頂いたウェブリオでした。ウェブリオには、シードラウンドで赤浦(インキュベイトファンド 代表パートナー 赤浦徹氏)が投資し、シリーズAラウンドでNIFが投資することになりました。そこでNIFの投資担当者として、赤浦と一緒にインキュベーションしていきました。その経験をキッカケにメディア事業に関してグロースのイメージが湧きやすくなりました。

2010年~2012年は市場環境としてもソーシャルゲームが流行した期間でもあってゲーム系ベンチャー企業へ投資することも多くありましたが、全体としてはメディアをグロースの軸とした特定セグメントでサービスを展開するスタートアップへの投資が多いです。**その中で最もグロースしている投資先の一つは、ゲームメディアを展開しているGameWithです。**GameWithは会社設立からわずか3年ですが、非常に大きくグロースしています。その他では、『Togetter』を中心としたメディアを運営するトゥギャッター、薬のメディアを展開しているミナカラ、ソーシャルトラベルメディアの『Compathy』を運営するワンダーラストなどがあります。

ー GameWithにはどのような経緯で投資することになりましたか。

**村田氏**:

社長の今泉さんとは2011年に我々が主催している『Incubate Camp』で初めてお会いしました。当時今泉さんは慶應義塾大学の学生で、ウェブブラウザ上で特定のページを見るユーザー同士が可視化されて盛り上がるツールを事業化する目的で参加していました。結果的には当時『Incubate Camp』で評価が集まらず、そのアイデアをもとに起業して投資しようとはなりませんでした。

その一方、当時『Incubate Camp』では僕がペアになった人と一緒にゲーム会社を立ち上げようとしていて、今泉さんに「CTOとして共同創業しないか」と持ちかけたところ、今泉さんが快諾してくれて、一緒にその会社を立ち上げることになりました。同社は、ディー・エヌ・エーが運営する『モバゲー』のセカンドパーティとして同社の内製開発チームと協力してブラウザベースのソーシャルゲームを開発しました。

設立から約半年で1本目、3カ月後立て続けに2本目のタイトルをリリースできて、初動の月商が数千万となるなど好調な滑り出しでした。ただ当時2012年はブラウザゲームからネイティブゲームへ市場転換するタイミングでもありました。

その中、ネイティブゲームにシフトすることも議論しつつも、設立当初から『モバゲー』のセカンドパーティとして事業を展開していたこともあって、ブラウザベースのソーシャルゲームを開発し続けていました。プロダクトもこれまでのようにグロースできず、チームメンバーも次から次へと辞めていき、日に日に厳しい状況へ追い込まれました。創業メンバーもついに限界になって、2013年4月に同社を清算することにしました。

最後の取締役会を終えて、今泉さんと僕でホワイトボードと椅子だけがあるオフィスの中で話す機会がありました。「これ完全に失敗だよね」「やっぱり悔しいよね」「リベンジしたくない?」そう話したところ、今泉さんが「リベンジしたい」と答えてくれました。何をやるかは決めていませんでしたが、その場でスタートアップすることを決めました。

それから1週間後、お互いに事業アイデアを見せ合った中に今のGameWithの原形となるアイデアに絞ってお互いが壁打ち相手になりながらグランドデザインを考え、2013年6月にGameWithを創業しました。

会社設立後、今泉さんがメンバーを3人集めてきたのですが、「ストイックにやりたい」と言って巣鴨周辺の千石という所に4LDKのマンションを借りてきました。結果「4部屋がそれぞれの住む場所、リビングがオフィス」という環境で、GameWithの立ち上げ当初はチームメンバーが共同生活をしながらのサービス開発が入り口でした。

その3カ月後2013年9月にサービスをリリースし、さらに4カ月後の2014年1月にはジャフコから資金調達を実施しました。会社としても事業としてもグロースできて、オフィスも神谷町のオランダヒルズへ移転しました。

ー GameWithの創業から資金調達まで非常に短期間でのグロースですよね。どのようなことがGameWithのグロースへ寄与しましたか。

**村田氏**:

設立当時に話し合っていた市場の将来仮説が綺麗にハマったのですよね。GameWithはサービスリリース直後から初動のトラフィックがしっかり作れていて、最初の3ヶ月から綺麗にグロースをしていました。そこから一旦踊り場を迎えるのですが、直ぐにグロースシナリオを修正して再加速していきました。GameWithの場合は戦略が明確だったことも大きいですね。

ー GameWithとは、非常にドラマチックな出会いがあったと思いますが、その他に創業時からの出会いで印象的な投資先企業はありますか。

**村田氏**:

ミナカラですね。ミナカラの社長である喜納さん(株式会社ミナカラ 代表取締役薬剤師・経営責任者 喜納信也氏)とも『Incubate Camp』で出会いました。

ミナカラは、①薬に関するメディア、②医療従事者が直接Q&Aに答えてくれる医療特化版知恵袋、③薬に関するキュレーションメディアの3本立ての事業をミックスしてはじめました。ミナカラでも創業時のチームビルディングから支援しています。

喜納さんのキャリアは非常にユニークで、薬剤師なのにエンジニアでコードもかけるんですよ。非常に誠実で真面目でコミットメントが高くて非常に優秀な社長でして、もともとスタートアップしたいという強い意志があって、薬剤師の免許を取った後にIT企業でエンジニアとして働き、その傍で薬剤師のアルバイトをして、その後MBAを取った後にミナカラを創業しました。

ミナカラも非常に良い形でグロースしていて、リリースからわずか1年半でMAU(1カ月あたりのアクティブユーザー数)が200万を超えています。

今ミナカラではメディアとしてのグロースを進めながら、新規事業として処方薬のデリバリー事業を立ち上げています。ミナカラでは創業時から「まず薬のメディアを作った上で、薬のデリバリーにつなげる」という構想を思い描いていました。処方薬のマーケットは全部で約6兆円と大きな市場でありながら、EC化率0%でたくさん負の構造を持っており、スタートアップが新たなイノベーションにチャレンジするには非常に魅力的なマーケットです。

そこでミナカラでは、処方箋から薬の受け取りまでの一連の行動をより便利なものへと解消するために薬のデリバリー事業の試験運用をはじめました。ミナカラの薬のデリバリー事業は非常に良い形でグロースしていて、今後に期待しています。

ー GameWithもミナカラもチームビルディングから一緒に作り上げていますが、投資する際に最も重要視するポイントはありますか。

**村田氏**:

**最もプリミティブなところは覚悟感で、コミットメントが一番大事な要素だと考えています。**多くのスタートアップはうまくいかないわけですよ。うまくいかないというのは、10社あって8社潰れるというわけではなく、うまくいく時間よりもまだグロースできていない準備段階の時間の方が多いという意味です。「24時間365日、自分がやると決めたことに対して集中してコミットする」それは強い想いがないと実現できないと思います。

**スタートアップのたった1つの成功要件は、しぶといことだと考えていて**、野球で例えると、9回2アウトの状態で一般的には負けているといわれるタイミングでも「いや勝っている途中だ」「延長戦もある」と考えられるかどうかだと思います。もちろん、早い段階で結果を伴うことは素晴らしいことです。ただ、トップラインが100億円~1,000億円超えするような会社を作るためには、長期間のコミットが必要になります。**うまくいかない時もしぶとい生命力の高いスタートアップがチャンスをつかめてグロースできる。**だからこそ、創業者の覚悟感とめげない心がどの程度のものかを見ますね。

インキュベイトファンドでは創業者と一緒に事業をゼロベースから作ることが多いので、まだプロダクトがない段階やアイデアが磨ききれていない段階も多いです。そのため、1ヶ月~半年など期間をかけて、定期的にコミュニケーションをとりながら、コンセプトからの事業作り、チームビルディング、仮設設計、採用などを支援しています。**魅力的なマーケットで大きな負の構造を解決できているか、その中でいかにPDCAを早く回せるか。**特に仮設設計の確かさを大切にしています。

また、最近のスタートアップのテーマは、様々な分野で法制度の改正など有識者同士が議論し合うタイミングが多くあるので、非常におもしろいと思います。

ー 最後に、今最も気になっているマーケットはありますか。

**村田氏**:

やはり、引き続きデジタルヘルスのマーケットを注目しています。**どう考えてもインターネットと相性が良いはずなのに、まだインターネット化されていない部分が多いと考えています。**もちろん法規制の問題などもありますが、一つひとつ課題を紐解いていくと、2016年以降当たり前の医療サービスとしてインターフェイスレベルで便利なものを作れると考えています。

**デジタルヘルスのマーケットはメタデータの塊で、なおさらインターネットと相性がいいと思いますし、メタデータ率の高いマーケットは、これから変革が起こる確率が高いと考えています。**デジタルヘルス分野をはじめ、成熟産業として長期間君臨しながらもインターネットが本質的に使われていないマーケットはたくさんあると思います。

**「既存産業として規模が大きくて様々な負の構造を抱えるマーケットで、まだインターネットのイノベーションが起きていない領域」**、そういったマーケットを投資テーマとして追いかけて、そのフィールドでチャレンジするスタートアップへ投資していきたいと思います。

ー ありがとうございました。

インキュベイトファンド

Incubate Camp 9th