「予想できないものに出会えるサービスを」読書メーターを手掛けた赤星琢哉の挑戦

赤星 琢哉 河森 敬元 

熱を帯びつつある旅行業界のスタートアップ。XTechの「地球の歩き方T&E」の買収と留学事業および旅行事業への参入や、CASH光本氏が率いる「TRAVEL Now(トラベルナウ)」など、2018年は特に旅行に関するスタートアップのトピックスを目にする機会が多くなってきました。

そのまさに今ホットな市場で新たに旗を上げたのが、「読書メーター」を手掛けたエンジニアであり、起業家の赤星琢哉 氏。2014年秋に「読書メーター」を運営していた株式会社トリスタが株式会社ドワンゴに売却されて以降、4年ぶりの本格始動です。

事業売却後はどのような生活を送り、そこからなぜ「旅行」の新サービスを立ち上げるに至ったのか。そしてその新サービスにどのような思いがあるのか。株式会社X代表の赤星琢哉 氏、共同創業者の河森敬元 氏にお話をお伺いしました。

プロフィール

赤星 琢哉 河森 敬元

赤星 琢哉(あかほし たくや)(Twitter:@akahoshitakuya )
プログラマー / Webプロデューサー / 起業家 / 投資家
在学中の2003年から「広告会議室」「マイミク通信簿」「読書メーター」 などのWebサービスを開発。2014年秋には読書メーターを運用する株式会社トリスタを株式会社ドワンゴに売却する。また、mixiアプリを始めとするOpenSocialアプリケーションの開発を行う空飛ぶ株式会社 の立ち上げにも携わる。現在は2018年6月に設立した株式会社Xで旅行好き向けのモバイルSNSアプリを開発している。

河森 敬元(かわもり たかゆき)
プログラマー / Webプロデューサー
空飛ぶ株式会社でアルバイトのエンジニアとして入社。読書メーターの運営にも携わる。株式会社Xの共同創業者として、赤星氏とともに旅行好き向けのモバイルSNSアプリを開発に従事している。

正田 圭 (まさだけい)(Twitter:@keimasada222 )
シリアルアントレプレナー
15歳で起業。インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や企業価値評価業務に従事。2011年にTIGALA株式会社を設⽴し代表取締役に就任。テクノロジーを用いてストラクチャードファイナンスや企業グループ内再編等の投資銀⾏サービスを提供することを目的とする。2017年12月より、スタートアップメディア「pedia」を運営。著書に『サクッと起業してサクッと売却する』『ファイナンスこそが最強の意思決定術である。』『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』『15歳で起業したぼくが社⻑になって学んだこと』(いずれもCCCメディアハウス刊)、『この時代に投資家になるということ』(星海社新書)がある。正田 圭 のnoteはこちら

出発点は「広告会議室」。コピーライター志望からエンジニアへ

赤星 琢哉

正田:赤星さんが最初に手掛けられたサービスはどのようなものだったのでしょうか?

赤星:ウェブサービスとして最初に手掛けたのは、「広告会議室」という、言葉好きが集まるコトバ系SNSでした。21か22歳くらいの頃です。

正田:まだ大学生の頃ですよね?

赤星:そうですね。もともと僕はコピーライターや広告クリエイターになりたかったんです。でも、当時宮城県の大学に通っていたのですが、広告を教えてくれる学校なんて周りになかった。東京には広告コピーの学校があったのでそこに通おうと思い、バイトしてお金を貯め、大学を休学して通い始めました。

そこでの講義が一通り終わった後も、もっとキャッチコピーについて勉強したいなと思い、そこで立ち上げたのが「広告会議室」でした。ネット上でお題をひとつ出して、それに沿ったコピーを何本か投稿してもらい、相互に投票をして1位を決める、というサイトを作ったのが最初です。

そのサイトはWebクリエーション・アワードの学生賞をいただけて、そこからなんとなくそのままサービス開発をしていこうと決めました。

そのあと、コピー系のサービスを他にもいくつか作りました。「コピー2.0」や「コピー裁判所」、キャッチコピー検索ツールなど、言葉に関するwebサービスを中心に提供していました。その後、読書メーターの開発に至りました。

正田:読書メーターを始めたきっかけは?

赤星:これをやったら面白い!と自分が思えるサービスをずっと作ってきました。読書メーターもそのうちの1つ。たまたま読んでいた本が面白かったのでもっと面白い本が知りたいなと思い、だったらネットで情報共有できる場を作れたらいいかなと。そこで生まれたのが読書メーターで、思った以上にたくさんの方に使っていただけました。

正田:起業された時はもう事業売却までイメージした目標はあったのでしょうか?

赤星:売却のイメージは当時全然ありませんでした。会社を立ち上げたのも、少しずつ広告収入などでお金が入ってきたので、会社にしておいたほうがいいかなという感じでした。

正田:立ち上げの際は出資をうけました?

赤星:読書メーターのほうは誰からも受けていないです。空飛ぶでは色々な資本関係がありましたが。

正田:当時の最盛期にはどのくらいのユーザーがいたのですか?

赤星:リリースは2008年だったので、およそ6年半運営していました。アクセス数は売却の頃に最高記録を更新しました。

  • 月間訪問者数:890万人
  • 月間ユニークユーザー数:465万人
  • 月間ページビュー数:3900万PV
  • 感想・レビュー数:1074万件
  • 登録者数:47万人

詳しくはブログに残してあります。
読書メーターの売却と辞任について

空飛ぶ株式会社と、河森さんとの出会い

赤星 琢哉

正田:空飛ぶ株式会社はどのような創業の経緯があったのでしょうか?

赤星:空飛ぶ株式会社は、株式会社insprout (インスプラウト)の三根さんに声をかけていただいたことがきっかけです。その当時、三根さんがソーシャルアプリを作れる社長候補を探しており、「一緒にやりませんか?」という話になりました。

正田:それが当時おいくつの時ですか?

赤星:それが27歳、今が36歳なのでちょうど10年ほど前のころです。

正田:河森さん何年目ぐらいの時に入られたのですか?

河森:僕が入ったのは一年目ぐらいです。ツイッター上で「就職できない!」と言い続けていたところ、それを見ていたけんすうさんに「それなら空飛ぶっていう会社が今募集しているから、一度受けてみたらどう?」と教えていただいたことがきっかけです。

じゃあぜひ!と返信したところ、「そもそもどんな経歴で、どんな履歴書を提出しているのか?なんで君がそんなに就職活動で落ちているのか分からないから、僕に書類を見せて」と返ってきました。そこで履歴書を送ったところ、「君が落ち続けている理由が分かった。履歴書はこうやって書くんだよ」とすごく丁寧に説明してもらいました。そのあとスカイプで何度か面接をして、アルバイトとして入社することになりました。

正田:当時からけんすうさんは優しかったんですね。

河森:そこから東京へ通う生活が始まりました。

正田:それまではどちらに住んでいたんですか?

河森:当時は神奈川の湯河原、ほとんど静岡の場所に住んでいました。空飛ぶの頃は湯河原からずっと東京へ通っていたんです。

河森 敬元

正田:空飛ぶの売却はどのように進んだのでしょうか。

赤星:売却時には、すでに僕は抜けていました。そこには関わっていないです。

正田:抜けられたあとは何をされていたんですか?

赤星:抜けた後はやることがなくなってしまったので、個人的にやっていた読書メーターにコミットすることにしました。

正田:そこからどういった経緯で読書メーターの売却に至ったのですか?

赤星:読書メーターは好きで運用していましたので、特に売却とか上場とかそういうのは考えていませんでした。ですが買収の話が上がった時に、こうした売却の経験もあまりできるものでもないので、面白いかもなと思い始めました。そして2014年に、読書メーター(株式会社トリスタ)を株式会社ドワンゴに譲渡しました。

譲渡後のトラブルは特にありませんでした。強いて言えば、僕個人で運営していたので、プログラムが個人っぽい(笑)。渡すときは申し訳なかったです。今もたまに中の人とは連絡を取り合っています。

サービスを作るのは、やっぱり面白い

赤星 琢哉

正田:読書メーターの売却後は何をされていたのですか?

赤星:ちょうど子供が小さい時だったこともあり、売却後は子供と遊んだり、本を読んだりしていました。あとは旅行ですね。ヨーロッパや中国、インドなどにも行きました。とにかく、やりたいことをやっていました。

正田:今回発表された旅行アプリの立ち上げに至った背景にはどのようなきっかけがあったのでしょうか?

赤星:子供と遊んだり、本を読んだり、旅行したりも確かに楽しいのですが、去年頃からまた何かを作りたいなと思ってきたんです。サービスを作るのは、やっぱり面白いんですよ。

正田:「旅行」以外に検討したサービスはありますか?

赤星:「食」です。やるなら「食」か「旅行」のどちらかでした。実際に旅行し、食事もしながら、どちらがいいか考えました。最後の決め手になったのは自分が使いたくなるか、色んな人が使ってくれる面白いサービスになりそうか、でした。

実は過去に「旅コレ」という旅行系のサービスをやっていたことがあるんです。読書メーターを立ち上げたあと、自分が作りたいと思えるサービスを色々と立ち上げていた2011年頃です。他には映画のレビューを残せる「鑑賞メーター」や音楽系の「音楽メーター」も立ち上げていました。それらのサービスは株式会社トリスタの持ち物でした。現在は「読書メーター」以外、すべてクローズしています。

正田:「旅コレ」はどういったサービスだったのですか?

赤星:旅行での写真を共有できるサービスでした。そこへコメントしたり、いいねしたりもできました。ただ当時はモバイルではなく、デスクトップだけのサービスでした。

河森:その頃、僕もデバックのお手伝いをしていましたね。

正田:河森さんはいつの段階で今回参加されているのですか?

赤星:一緒に旅行や食事に行くなかで、「何かしようよ」という話自体は、実はずっと河森と自分の間にありました。「何をしようか、やっぱり旅行かな、旅行面白いし、旅行好きだし、旅行やろうよ!もっと旅行が楽しくなる、そんなサービスがいい」という会話の流れで、「よし、やろう」と決めました。

正田:河森さんが今回赤星さんと一緒に開発していくことを決めたきっかけはどこにあったのでしょうか?

河森:もともと赤星さんが作るサービスが好きで、赤星さん自身も尊敬しています。空飛ぶの頃から「コミュニティ」を重視する姿勢は変わらず、そこから多くのことを学んできました。

また、僕自身も旅行系のサービスを作ってみたかったんです。いつか自分でやりたいことを個人的にメモしているのですが、その一番上に書いていたのが旅行系サービスの案だったんです。赤星さんと、しかも旅行系サービスの開発ができるので、これはぜひ一緒にやりたいと思いました。

集合知だけではない、予想できないものに出会えるサービスを

赤星 琢哉

正田:今回の旅行系サービスについて教えてください。

赤星:ジャンルは旅行好き向けのSNSです。

正田:今年は旅行系のサービスが盛んなイメージですが、どういった背景があるのでしょうか?

赤星:正直よくわかりません。僕も業界を調査してとかと言うより、自分が欲しかったのでやり始めたものなので。業界全体が盛り上がるという点ではよいことだと考えています。

ただ、僕たちが目指す方向では、あまり新しいプレーヤーはまだいないと思っています。旅行者のレビューサービスですと、ずっと昔からある「トリップアドバイザー」が現在でも多く使われていると思います。トリップアドバイザーはレビュー重視でホテルやexpediaなどのプラットフォームからの広告費で成り立つビジネスだからなのか、ソーシャル分野にはあまり力を入れていませんでした。その一方、僕達は旅行者側に向けたサービスを作りたいと考えています。ただ最近、今年の9月頃にトリップアドバイザーから旅行者向けのソーシャル機能を導入するという発表がありました。バッティングするとしたらそこでしょうか。

でも他人のことはあんまり気にしていないです。トリップアドバイザーも参入するという話を聞くと、やっぱりそこは重要なポイントだったんだなと思うくらいです。

正田:現在、サービスはどのような段階なのでしょうか?

赤星:現在はテスト版を開発中です。β版のリリースは年内を目指しています。

赤星 琢哉

正田:サービスへの思い入れがあれば教えてください。

赤星:ユーザーがランキングや星の評価を見て、レストランやホテルなどへ実際に行くという行動パターンも、確かにあります。それはそれでいいと思っていますが、そのパターンだと、そこに取り上げられない場所へはユーザーは行くことができないんです。

僕がレストランを選ぶ際は、食通の友達に教えてもらうことが多く、そうした場所はレビューの点数が低い、そもそもレビューがないところもあります。「本」でもそうでした。「読書メーター」で知り合った人から直接「この本いいよ」と教えてもらうと、登録数や感想が少ない、だけどすごく面白い本だったことがあります。

ランキングとか星の評価とか、集合知だけではない、「一期一会」みたいな、予想できないものに出会えるサービスにしたいです。

特に「旅行」と「食」、つまりレストランでの体験で違うと思うのは、レストランの「おいしくない」は悪いイメージにしかなりえないのですが、「旅」って失敗もいい思い出になるんです。むしろ、予想外のことの方が強く印象として残る気がしています。電車に乗り遅れたり、豪雨に襲われたり、現地のインド人と喧嘩になりそうになったり(笑)。そうしたことが思い出になったりするのですが、でもそれってランキングにならない、というかできません。沐浴で腹を壊す場所ランキングって絶対ないじゃないですか。

旅の面白さはそこにこそ、あると思っています。そうなると直接旅好きの人と出会ったり、話を聞いたりすることが手段として必要なので、SNSのようなサービスにしたいなと。

技術力よりもその人の気持ち。旅行好きなエンジニアを募集中!

正田:事業全体の今後の展開について教えてください。

赤星:事業売却や上場は全く考えていなくて、まずは自分が使いたいなと思えるもの、自信を持って使えるものを作っていきます。今回増資したので、1年間は開発に集中して作ろうと思っています。あとはサービスの出来を見ながら、走りながら考えていきます。

正田:最後に読者へメッセージがあればお願いします。

赤星:一緒に働いてくれる方、特に旅行好きなエンジニアを募集中です。現時点でのスキルを僕はあまり気にしていません。今アプリ開発ができなくても、やりたいことに共感できること、長く一緒に仕事ができることのほうが大切だと思っています。興味がある人がいれば、ぜひこちら に連絡してください。

正田:本日はありがとうございました。

赤星 琢哉 河森 敬元