一回目より二回目、起業の成功確率を上げ、売却する。福岡で「M&Aのリアル」を考える

トウリュウモン2018

ますます「市民権」を得つつある企業のM&A。2017年には公開されているだけでも3,050件のM&Aが日本企業で行われ、これは6年連続の増加だという。IT分野をはじめとしたベンチャー企業にとってもますます一般的になりつつあるM&Aだが、起業を志したばかりの学生、しかも地方の学生起業家にとっては、まだまだ遠い別世界の話かもしれない。しかし、より身近にそれを感じてもらうことを目的として、九州の学生を対象に開催されたスタートアップイベント、「第4回TORYUMON〜九州の学生向けスタートアップイベント@福岡〜」ではバイアウト経験者より「M&Aのリアル」が語られた。

登壇者プロフィール

トウリュウモン2018

(左から順に)

原口 悠哉
株式会社ジャパンインフォ 代表取締役
1986年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒。新卒でITベンチャーに勤めた後、2012年に創業。複数回のエクイティ・デッドでの資金調達を行い各種事業を手がける。2015年に事業譲渡と訪日旅行者向けWebメディアの立ち上げを並行して行い、2016年にフジ・メディア・ホールディングスグループに数億円でのバイアウト。

カズ ワタベ
ウミーベ株式会社 代表取締役
クックパッド株式会社 新規サービス開発部
1986年長野県松本市生まれ。音楽大学卒業後、東京での音楽活動を経てスタートアップの創業に関わり、2013年に福岡に移住。2014年8月「釣りを、やさしく。」をビジョンに掲げ、ウミーベ株式会社を設立。2018年8月にクックパッド株式会社に買収され、現在はウミーベ株式会社代表取締役とクックパッド株式会社新規サービス開発部を兼務している。

正田 圭
TIGALA株式会社 代表取締役CEO
15歳で起業。インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や企業価値評価業務に従事。2011年にTIGALA株式会社を設⽴し代表取締役に就任。2017年12月より、「pedia」を運営。
著書に『サクッと起業してサクッと売却する』『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい』『15歳で起業したぼくが社⻑になって学んだこと』(いずれもCCCメディアハウス刊)がある。

三者三様、語られるそれぞれのバイアウト経験

原口:「M&Aのリアル」と題して、参加者からの質問に答える形式でセッションをお送りします。

最初にいただいた質問は「M&Aのプロセスについて」です。まずはこの3名の中で一番M&Aの経験回数が多い正田さんから。最初の起業は学生の頃だったそうですが、そこからM&Aまでのお話をお願いします。

正田:僕が最初に会社売却したのは19歳のときです。その頃はSEOの会社を経営していました。SEOはもう古いイメージをお持ちの方が多いかもしれませんが、当時は最先端、アウンコンサルティングぐらいしか競合がいない状態で、フルスピードが後発でSEO事業をはじめていました。

もともと、会社はIPOを目指していたこともあり、監査法人は入っているけれど、主幹事証券はこれから決める、というフェーズまではいきました。しかし、後発の会社がどんどんうちを追い抜いてしまったこともあり、「このペースでIPOを目指しても……」と思い始めました。そこで他にどんな手段があるかと考えたとき、M&Aで事業売却したらいいんだということに気付きました。そして会社を売却へ、という流れです。

原口:何が一番大変でしたか。

正田上場準備を社内で進めるには、学校へ通いながらでは絶対的に無理がありました。

当時、高校2年生ぐらいからIPOを目指し始めていました。昼休みに会社へ電話して、テレアポのアルバイトたちがしっかり電話かけているかどうか、何時に何本電話をかけたか聞いて、でも社長の電話の後ろから学校のチャイムが聞こえる、そんな学生生活。なので、どうしても事業進捗は緩やかでした。

原口:ありがとうございます。次はカズさん、お願いします。

カズ:僕の場合は「絶対IPOするぜ!」みたいなタイプではありません。うちは2014年に創業した後、2015年と2016年に資金調達を行いました。そして今年に入ってから、ベンチャーキャピタルや事業会社と「次の資金調達もそろそろ……」と話をする中で、今回のタイミングでの売却の話が出始めました。

うちは運良くスムーズに話がまとまりましたが、起業家側はこのタイミングで売却したいと考えている、しかしベンチャーキャピタルや投資家は「もっと頑張れるんじゃないか?」と考えており、そこにギャップが生まれるケースはよくあります。

原口:逆もありますよね、投資家側から早く売れよと。

カズ:事業会社との交渉と、既存投資家など身内への説得が同時に起きてしまうと本当に大変です。身近なところでも実際にそうなったという話は聞いたことがあります。

売却先を探す方向で動いていこうと決定したのが今年の春先で、そこから様々な会社と話をする中で、クックパッドの「クックパッドマート」という生鮮食品ECの新規事業の責任者をやっていて、旧友でもある福崎君に出会いました。彼は「サイタ」というスキルマッチングのサービスで知られるコーチ・ユナイテッドで、創業者の有安さんが離れた後に代表になった方です。サイタはクラウドワークスに売却されましたが、彼はそのままクックパッドに入って新規事業を立ち上げていたんですね。その彼とランチで出会ったときに、クックパッドもあり得るんじゃないかという話になり、社長を紹介してもらって1カ月半ほどで売却が決まりました。

原口:上場企業でそのスピードはすごいですね。

正田:上場企業はやはりゆっくりですからね。役会にあげて、承認手続きを取って、といったプロセスがありますから。

カズ:こうした経緯で今年の9月にクックパッドへジョインしました。ウミーベ自体は福岡に残っていますし、僕が代表なのもそのままです。ウミーベ側はリモート業務と、月に2回ほど直接来てマネジメントをしつつ、クックパッド側で新規事業をつくるために、現在リサーチを繰り返しているところです。

原口:僕は2016年の11月に、訪日旅行者向けのWebメディア事業をフジ・メディア・ホールディングスグループに売却しました。資金調達を行っていたタイミングでしたが、その最中に複数の企業さまから会社を買う、買わないというお話をいただき、条件面やその後の事業運営を行う上で最も良いと考えたため、そちらへの売却を行いました。

会社は「子ども」か? 税率から考えるM&Aを目指す起業

トウリュウモン2018

原口:次にいただいた質問が「最初からM&Aを目指した起業はありなのか」です。こちらについては、それをやりたいのであればやればいいんだから、そりゃありでしょ、という考えです。そもそも、「バイアウトはマイナスイメージを持たれがちです」と一般的に言われることがありますが、直接そんなことを言われたことはないです。

カズ:一般的に「乗っ取り」みたいなイメージがあるのでしょうか。

原口:たまに聞くのが「会社は自分の子どもなんだから、それを売るだなんてとんでもない」というような話。そもそも自分の子どもだって、大人になったら独り立ちしていくのだから、別に最後まで手と手を取り合っていく必要はありません。なにより、周りに何を言われようとも、起業家だったら自分が選んだ選択肢を正解にするぐらいの気持ちでやればいいと思います。

カズ決めるのは自分だし、外野からいろいろ言ってくる人たちは、別に何かの責任を取ってくれるわけではないので。

正田:僕がM&Aのほうがよいと思う理由は「税率」です。別に会社を売ろうが続けようが、ファイナンス的な理屈で言うと、どっちでも正直変わりません。会社の値段は、理論上、将来稼ぎ出す収益を現在の価値で割り引いたもの。事業を売っても、別に続けても本質的には変わらないはずです。

では何が違うのか。会社をずっと続けていけば、ずっと法人税の35%を払うことになりますが、会社売ったらだいたい20%ほどの税率で済むと考えたら、税率が安いほうが得です。「税率」という観点からみれば、M&Aのほうが経済的合理性があります。

売りと買いのミスマッチ。M&Aの今後とは

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原口:次にいただいた質問は「M&Aが加速しそうな業界を教えてください」です。基本的にトレンドになっている市場の事業は買われやすいです。なぜ買われやすいのかというと、買い手企業がその市場に参入したい、その中で拡大したいという目論見以外にも、他の企業にその事業を渡したくない、というマインドも働くためです。直近だといわゆるAIやFinTech周辺がそうですが、D2C(Direct-to-Consumer)と呼ばれるビジネス形態もシナジーや将来利益が見込みやすいので、その辺りの再編はもっと加速していくだろうと思っています。

正田:やはりM&Aが今度どんどん増えていくことは間違いありません。ただ、売りの案件と買いたい人のバランスは全然マッチしていません。買い手はとにかく買いたい。しかし売り手がなかなか見つからないという状態です。上場企業の人からでもたまにM&Aってなんですか?という質問が出てくることがあります。

そもそも上場は何のためにするのでしょうか。2011年にコーポレートガバナンス・コード(上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針)が設定されて以降、M&Aを加速させるために上場しなさい、というムードが強くなりました。しかし、M&Aをするために上場企業になったはずなのに、それでもM&Aを知らない企業がまだまだ多い。これからも、M&Aをしたい企業はどんどん増えていき、しかしいい案件がなかなか見つからないという状態はこれからも続きます。極端な話、利益さえ出せる会社やいいブランドを持つ会社さえ作ることができれば、売ること自体は比較的容易です。ですので、今から起業する人はいい会社つくってどんどん売りましょう、と思っています。

一回目より二回目。起業の成功確率を上げていくこと

トウリュウモン2018

原口:最後に、それぞれからメッセージを。僕が伝えたいのは、起業=スタートアップではないということ。投資を受ける=起業ではありません。自分が人生でやりたいことをしっかり見据えた上で、最適な起業の道筋をしっかり考えてほしい。ただ、起業それ自体はしんどいこともあるけれどもすごく楽しいことだなと思うので、興味があるならやってみればいいと思います。

正田一度起業したら、もうそこが人生最初で最後の起業、という訳ではありません。起業家になったなら、今後何回か起業するその第1回目だということを忘れないでください。

一発目の起業で100点満点はないと思います。でも、2回目も、3回目もある。「1回目の起業だし、自分が目指す100点満点のうち50点ぐらいでもいいや」と思えるような心構えを持つことで、変にストレスを感じることなく、楽しく起業家人生を送れると思うので、気楽に過ごしてください。

カズ:起業したら、すごく大変なタイミングもあると思います。ですが、やはり会社員をやっているのとは全く違った楽しさや刺激があるので、ぜひ1回やってほしいなと思います。リスクの部分を気にする人が多いと思いますが、意外とそこまでリスクはないと思っていまし。アメリカ大統領も4回も破産しているので、失敗しても大丈夫です(笑)。

ウミーベは2社目、1社目よりうまくできたこともあるし、まだまだ反省するところもある。起業の回数を重ねれば重ねるほど、成功確率は上がっていくと思います。早いうちに失敗するにせよ、成功するにせよ、経験はするべきです。起業したかったら、明日法務局に行けばいいと思います。

原口:ありがとうございました。