「投資の成功」と「ビジネスの成功」は別物。資金調達時にベンチャー企業が意識すべき作法を語る

「投資の成功」と「ビジネスの成功」は別物。資金調達時にベンチャー企業が意識すべき作法を語る経営資源として語られる「ヒト・モノ・カネ」。ベンチャー企業の成長過程において、事業を継続するための資金が尽きる話は、起業家のハードシングスとして語られる機会も非常に多いです。多くの人が興味深いと感じるトピックだからなのでしょう。

しかし、資金の調達に難航する企業があるいっぽうで、多額の調達に成功して事業を伸ばす企業があるのもまた事実。いったいこれらの企業は、どのようにして資金調達に成功したのでしょうか。

そんな気になる資金調達のポイントを紹介するため、有楽町の「Startup Hub Tokyo」でトークイベントと個別相談会を兼ねたイベントが開催されました。

登壇者は、本メディアを運営するTIGALA株式会社 代表の正田と、ストーリーアンドカンパニー 代表の細川氏の2名。さっそく、イベントの様子を見ていきましょう。

17年前と比較すると、資金調達は圧倒的に容易になった

まずはじめに登壇したのは、TIGALA株式会社 代表の正田。17年前に行なった初めての資金調達と先月半ばの資金調達時とを比較して、スムーズな資金調達におけるポイントを語ります。

17年前と比較すると、資金調達は圧倒的に容易になった

正田圭(まさだ・けい)
ーTIGALA株式会社 代表取締役CEO
15歳で起業。インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や企業価値評価業務に従事。2011年にTIGALA株式会社を設⽴し代表取締役に就任。2017年12月より、「pedia」を運営。
著書に『サクッと起業してサクッと売却する』『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい』『15歳で起業したぼくが社⻑になって学んだこと』(いずれもCCCメディアハウス刊)がある。

正田:みなさん、今日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介から行いますね。僕は、いわゆるベンチャー起業家ではありません。現在32歳なのですが、17年前、15歳のときに初めて起業しました。

当時はまだインターネットが珍しい時代でしたが、SEOの会社を始めて、M&Aでバイアウトしました。その後は、エンジェル投資家として活動して、2011年に企業のM&A支援を行うTIGALA株式会社を設立しました。

企業に対しての投資やバイアウト経験はありますが、現在行なっている事業を立ち上げたのは1年半前のこと。つまり、いわゆる起業経験は2回なんです。

17年前に起業したときからVCは存在していましたが、学生の僕が気軽に知り合える環境ではありません。しかも、当時の資金調達は今でいうところのシリーズB、下手したらシリーズCほどの難易度でした。

今なら「起業します!」と公言して1,000万円調達するのは決して難しいことではありませんが、当時はとにかく苦労だらけでした。

17年前と比較すると、資金調達は圧倒的に容易になった

正田:17年前の僕の資金調達方法というと、通っていた私立中学での友人の父がたまたま中小企業の社長だったので、「お願いします!」となんとか頼みこむ有り様。当時では、1,000万円の調達ですら相当大変でしたし、1億円なんていったらほとんど不可能でした。

ただ、17年後の今を見てみましょう。僕らの会社は、ちょうど先月の半ば(2018年9月21日)に合計2.5億円の資金調達に成功しました。プレバリュエーション(資金調達前の時価総額)が12億円だったので、起業後まもない期間での資金調達にしてはまあまあ良い方ではないかと思っています。

ただ、実はこの資金調達も、簡単にできたわけではありません。一度、昨年の秋に資金調達を目指して動いていましたが、結果として1円も調達できませんでしたから。その後、事業計画書を練り直してアタックし直した結果、合計で2.5億の調達ができました。

ところが、面白いことに、僕らは事業も計画も何ひとつ変えていません。変わったのは、事業の見せ方と、どのように投資家やVCを当たるか。それだけなんです。だから、やり方さえしっかりと考えれば、調達自体はそう難しいことではありません。

すべてのVCに成功する事業モデルを見定める選球眼があるわけではない

すべてのVCに成功する事業モデルを見定める選球眼があるわけではない

正田:それではここから、資金調達に向けて知っておきたい前提の話をしますね。まず、ビジネスとして成功する事業モデルと、資金調達できる事業モデルは、まったく異なります。これは、僕がベンチャー界隈の方々としっかりと話すようになった直近1年ほどで感じたことです。

というのも、普通資金調達を行おうと思ったら、エンジェル投資家やVCを訪ねていきますよね。彼らはいろいろな事業を見てきて、選球眼を持っているから投資の可否をジャッジできるのでしょう。……と、僕らは思うはずです。

ところが、実際のところは違います。とくに、創業して間もないファンドであればなおのこと。

彼らの運用する資金は、だいたい平均して20億円前後です。一企業に対しての資金額はだいたい2,000万円前後ですから、多くの企業に投資をして資金を回していかなければなりません。だから、正直なところは、事業がうまくいくかどうかなんて、しっかりと精査できているわけではないんです。

事業がうまくいくかどうかなんて、数年先を見てみないとわからない話ではありますしね。つまり、ファンドが投資したからといってビジネスとしての成功を約束されたわけではないんです。それをしっかりと覚えておいてほしいです。

すべてのVCに成功する事業モデルを見定める選球眼があるわけではない

正田:では、資金調達をするにはどうしたらいいか。答えは、どうにかして調達しやすい事業計画書をつくることです。嘘はもちろんダメですが、儲かるビジネスであることをバカ正直に伝えるのではなく、見せ方に注目して計画を立てていきましょう。

とくに、金額にもよりますが、投資家たちは「広告」に対して資金を投資したがるケースが多いです。銀行は返済できるかどうかを判断基準にしているため、オフィスや土地に対しての投資を好みますが、VCはディストリビューションを目的とした投資に好感を抱きます。

すでにプロダクトやサービスができている段階で、さらにディストリビューションするための資金調達段階まで持っていくことで、圧倒的に資金調達のハードルは下がるでしょう。

投資家によっては、どれだけ儲かるのかを「LTV(顧客生涯価値)」や「CPA(顧客獲得単価)」などの目線から知りたがる場合もあるので、数値を出すならそういった側面から見るのが良いと思います。

昨年の秋の資金調達時では、僕は業界や市場の伸び率・同業他社の現状などを鑑みて事業計画書を作成していました。ただ、将来性の観点って人によって見解が変わってしまうんです。それなら、議論の余地がより少ないポイントで話をしたほうが早いし確実です。

資金調達時には、あたる投資家の順序にお作法がある

資金調達時には、あたる投資家の順序にお作法がある

正田:そして、もうひとつ気がついたのが、資金調達時には、声をかける投資家の順序に作法があること。昨年の調達準備時には、とにかくVCを渡り歩いていましたが、それはあまり良くないみたいです。

今の時代に合った方法は、まず最初にエンジェル投資家から当たること。VCとエンジェル投資家を比べると、圧倒的にエンジェル投資家のほうが出資のハードルが低いからです。

VCでは、出資にあたって複数人の担当者が介入したり細かな審査を必要とします。ところが、エンジェル投資家はその人が事業を気に入るかどうかの判断軸しかありません。

できる限りベンチャー界隈で知名度のあるエンジェル投資家を当たって調達を確約してもらったあとに、VCに足を運ぶと調達しやすくなります。想定株主名簿を持って行き、株主とバリュエーションを説明したら、事業の内容が多少あいまいでも出資はしやすい雰囲気をつくれるはずですよ。

資金調達時には、あたる投資家の順序にお作法がある

正田:あとは、VCによって、リード(*1)とフォロー(*2)の向き不向きがあるので、それらも押さえておきたいところです。たとえば、ジャフコはリードばかりを張るVCとして有名ですよね。銀行系のキャピタルだと、フォローしか担当しなかったり。VCの特性や得意な事業領域を知ることで、さらに調達のハードルは下がると思います。

僕らの場合であれば、M&A仲介をメイン事業として置いていたので、会社の売却経験を持つエンジェル投資家(nanapi元代表のけんすう氏、トレンダーズ創業者の経沢氏など)に入ってもらいました。合計で8〜9名の投資家を集めてから、VCを当たりましたね。

そして、安いバリュエーションであまりにもたくさん調達を進めてしまうと株の希薄化につながるので、結果的には2.5億円で調達をストップしました。最初にエンジェル投資家の方々、VCとしてはデジタルガレージさん、そこからフォローで何社かに出資いただいて、あとはお断りしました。

事業の見せ方と、投資家を当たる順番。これを変えるだけで資金調達はどんな方向にも転びます。日本らしいですが、大切な作法を理解しておくだけでこんなにも変わるのだということを、17年前と比較しながら話してみました。

*1:特定の資金調達ラウンドにおいて、最大の資金を投資するVCや投資家
*2:投資条件に乗って追加資金を投資するVCや投資家

エモーショナルなストーリーに左右されない「STAR」の法則

続いて、資金調達までのストーリーを語ってくれたのは、ストーリーアンドカンパニー代表を務める細川氏。自身がNYに渡って体験した苦悩や創業初期の苦労を、自身がオリジナルで提唱する「STAR」の法則を使って紐解きます。

エモーショナルなストーリーに左右されない「STAR」の法則

細川拓(ほそかわ・たく)
ー株式会社ストーリーアンドカンパニー  代表取締役CEO
早稲田大学卒業後、2007年に株式会社リクルート入社。2016年2月、株式会社ストーリーアンドカンパニー創業。人の変化をより良いものするために、出会いと変化の機会を提供し新たな物語を創造するサービスを提供。”3時間の小さな旅”をテーマにした体験シェアリングサイト”AND STORY”インバウンド型グローバル体験を学生に、ローカルとの出会いを旅人に提供する交流するカフェ”U-CAFE”を手掛ける。オンライン・オフラインを通じて交流・学び合いを促進する。

細川:前半で正田さんが資金調達に関するノウハウをたくさん話してくれたので、僕からは考え方や行動に関する話をしようと思います。よろしくお願いします。

こういったイベントに参加して、役に立たないことってありませんか? そういったときの理由って、以下の3つが挙げられると思うんです。

  • 言われた通りにやっているけど、教えてもらった通り成功しない
  • 前提が無理ゲー
  • どこかで似た話を聞いた&読んだ

面白かったし刺激にはなったけど、聞いた話が参考にはならないと感じた場合、多くの原因はその人の辿ったストーリーがエモーショナルな要素によって左右されるからなのだと思うんです。

そこで今回は、僕の話を「STAR」と呼ばれる方程式に当てはめながら解説してみようと思います。僕が考えた方程式ではなく耳にした話ではありますが、みなさんの参考になればうれしいです。

エモーショナルなストーリーに左右されない「STAR」の法則

細川:STARとは、「Situation(状況)」「Think(考え方)」「Action(行動)」「Result(結果)」の頭文字を取って生まれた言葉です。それぞれの要素をかけ算することで、良い結果が叩き出されることを表しています。

僕の略歴をなぞりながら話を進めますね。僕は、高校卒業後にNYの大学に留学して、在学中にアパレルブランドを立ち上げました。お金がないときに留学をしたので、当時の僕はお金を儲けるためにこんなことを考えていました。

エモーショナルなストーリーに左右されない「STAR」の法則

細川:学生時代なので、長い休みを効率的に活用しようと服屋で働きつづけた結果、NYで活躍するアーティストのWK Interactと契約をして洋服を販売できるようになりました。

その後、なかなか売れずに悩んだので東京の業界人と仲良くなろうと決心したんです。出張に行って商品を売り続ける毎日でしたが、思うように結果に結びつきませんでした。

エモーショナルなストーリーに左右されない「STAR」の法則

細川:次の行動は、あまりに洋服が売れないことを嘆いて、とある企業の社長に話を聞きに行ったこと。彼は、アパレルブランドにも3,000万円を出資してくれていたのですが、あるとき「もっといろいろな世界を知ったほうが良い」と言われて。

価値観があまりにも偏っているから、格好悪いと思っていることにも挑戦してみたらどうかと提案されたんです。当時の僕が“イケてない”と思っていた「投資銀行」「商社」「広告」のいずれかに携わる企業のうちから選んで、リクルートに入社しました。

ずっと抱き続ける「人が変わりゆく様やチャレンジを応援したい」想い

ずっと抱き続ける「人が変わりゆく様やチャレンジを応援したい」想い

細川:リクルートでの日々は、正直なところすごく楽しかったです。ただ、僕は服をつくっていたときもリクルートにいたときも「人が変りゆく様やチャレンジを応援したい」と思っていた節があって。

アパレルに打ち込んでいたときは「服」という外的な要因で、当時リクルートで担当していた進学・ブライダル事業では人生のあらゆる側面で、人の変化を応援できることによろこびを感じたんですよね。

そこで、立ち上げたのが現在のストーリーアンドカンパニーです。主要事業の「AND STORY」は、“3時間の小さな旅”をコンセプトにした、体験やストーリーをつなぐプラットフォームです。

立ち上げた経緯を少しお話しますね。以前、妻のおなかにいた子どもの死産を経験したときに、旅に出たことがあるんです。そのとき、さまざまな人の優しさが心に染みて、自分に関わる多くの人に恩返しはできなくても「恩送り」がしたいと思うようになりました。

旅は、未知なるものとの出会いです。新しいことと出会うとき……たとえば書道教室に通うとき、僕たちは書道教室の比較を行います。でも、きっと多くの教室は同じことを行うし、差別化するポイントがありません。

そこで考えたのが「共感×体験」のキーワードでした。どんな文脈や想いで教室を開いているのか、体験ができるのか。そんな、未知のストーリーとの出会いが、人をつなげるのだと思ったんです。

ずっと抱き続ける「人が変わりゆく様やチャレンジを応援したい」想い

どこに行けば良いとか、
何をすれば良いとか、
どんな風になれば良いとか、
そんな地図がなくなった時代。

あなただけの物語を切り開くのは、
あなたしかいないのだけれど、
そんなふつうなことが、時々わからなくなる。
地図はないけど、コンパスなら持っている人たちがいる。
自らの道で、困難に向き合い、越えてきた、そんな人たち。

そんな人たちとの出会いは、
あなたの物語の行き先を、見つけだす手がかりとなる。
だれかにとって当たり前の日常は、
あなたにとって特別な体験となる。

そんな出会いと体験が、
あなたを次の物語へと導いてくれる。
そしてその物語は、まだ見ぬ誰かの物語と繋がっている。

STORY&Co.

細川:これまでのさまざまな経験をもとに、ビジョンを掲げて多くの人に恩送りをする意味を込めて自己資金で起業しました。ところが、ユーザーに発見してもらったり、利用してもらうには壁が大きくて。

さらに、サービス開発や広告資金を得るために資金調達を狙ってエンジェル投資家やCVCを当たっていましたが、出資もないしサービスも当たらない日々がしばらく続いていました。

シチュエーションは変えられないけど、行動はするかどうかは自分次第だ

シチュエーションは変えられないけど、行動はするかどうかは自分次第だ

細川:僕にとっての転機は、スマイルズの遠山さんから出資していただいたことでした。遠山さんは、三菱商事で勤めていた頃に社内ベンチャーとしてスマイルズを立ち上げた方です。

あるとき、たまたまリクルートで講演会を開いてださったタイミングがあって、すごくそこでの話に感動を覚えていて。いつか直接会ってお礼を言いたいと考えていたら、タイミングが訪れたんです。

2016年にスマイルズが行なっていたエイプリルフール企画で、遠山さんがどこかの企業で1日社員になるってイベントがあって。応募したら当選したので、自分の企業のビジョンを話したところ「いいね」と、出資してくださったんですよね。

こう考えると、状況(Situation)ってストーリーテリングだから、まねできないものじゃないですか。それならどうするか。僕は、「考え方(Think)」と「行動(Action)」で未来を変えます。

状況と、考え方と、行動とのかけあわせで結果が変わるなら、たとえば状況に恵まれなかったとしても考え方と行動次第でなんとかできるはずなんです。

シチュエーションは変えられないけど、行動はするかどうかは自分次第だ

細川:こういった経験から、僕は以下の3つのことがわかりました。

  1. 出資も出会い。一つ一つの出会いを大事にする
  2. 恋してからしか結婚できない人もいれば、結婚のために恋できる人もいる。順番も目的も自由だけれど、うまくいかなかった時相手のせいにはしないこと。だからこそ、恋すべきだと思う。
  3. 結婚・子育てにいくらかかかるかを考えて動かないより、確かな気持ちを覚悟を持って、行動することのほうが有意義である。

それでは最後に、僕が遠山さんからいただいて心に残っている言葉をみなさんにもご紹介して終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

シチュエーションは変えられないけど、行動はするかどうかは自分次第だ

ーーやりたいこと、という4行詩
やりたいということに出会い
必然性を根っこにして
意義を加えて
なかったという価値を創る

さいごに

さいごに

時代に合わせた資金調達のノウハウを語った正田と、想いありきで資金調達に成功したストーリーを語った細川氏。起業後の資金調達に悩みを抱える参加者も多かったためか、熱心に聞き入る様子が印象的でした。

また、トークイベント終了後は、参加者から各3組が選ばれて30分ずつの個別相談会が開催されました。起業後の資金調達に向けての悩みや迷いなどに対して、それぞれ答える登壇者2名。

短い時間ではあったものの、こういった時間を通して少しずつ悩みを解消していただけるとうれしいです。
さいごに

さいごに

さいごに

さいごに

それでは、最後までご覧いただきありがとうございました!

取材・文:鈴木しの
撮影:神颯斗