事業承継における負債の扱いは?借金がある会社を引き継ぐ注意点と分社化の方法

事業継承 留意点

「事業承継してもらいたいけど、負債が多いから…」

そんな風に悩んでいる経営者の方も多いかもしれません。

銀行など金融機関から融資を受けて事業を行っている場合、負債が大きくとも定期的に返し続けていれば大きな問題は起こりません。

しかし、オーナー社長が引退して後継者に引き継ぐ時には必ずネックになりますよね。

銀行借入金の方が会社資産より大きいのに、事業承継をさせても良いものか?
いっそこのまま廃業した方が良いのか?

そのように考える経営者もいるかもしれません。

しかし、少し待ってください。

負債などがたくさんあったとしても後継者に負担をさせず、スムーズに事業承継できる可能性のある分社化という対応方法を知っておいて損はないでしょう。

大きな借金があっても承継できる場合がある

事業承継 借金 相続税 排除制度 共同相続
中小企業は廃業する会社が増えているため、行政も事業承継には力を入れています。

事業承継税制とは?適用要件や平成30年度改正のポイントも解説

しかし、現実には後継者不足であったり、会社の資産を引き継ぐほどの資金がなかったり、逆に会社の負債が大きくて負の遺産になってしまったりと問題は様々です。

なかでも、負の遺産を受け継ぐ事になった場合は大変です。
銀行融資などは個人が保証人となっているケースがほとんどですから、後継者はある日突然莫大な借金を背負うことになるのと同じなのです。

もちろん、このような場合は現在増えつつあるM&Aでも売却できないことが多いでしょう。

分社化をすれば任意の部分を切り離せる

しかし、借金が多すぎて引き継がせることができないと諦めてしまうのは早計です。
このような場合には会社の分社化を活用することができるかもしれません。

事業譲渡、会社分割といった手法を使えば、現在の会社の中で好きな部分、任意の部分を切り離すことができます。
別会社として現在の会社の良い部分だけを切り離せば、事業承継やM&Aなどもグッと行いやすくなるのです。

この方法で負債のある部分と、事業の中核となる部分を別々の会社にしてしまうことが可能です。

M&Aで考えるならば、財務状況も改善され買収するのに悪い要素が少ない会社という事になりますね。

もちろん事業承継をする場合にも後継者の負担が軽減できることになります。

M&Aについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

M&Aとは?その目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

負債が大きい会社の具体例

では、続いて具体的な例を見てみましょう。

負債の方が大きければ買い手もつかない

例えばこのような財務状況の会社があったと仮定します。
今回は非常にざっくりとした話ですので、大きく「資産」と「負債」に分けて考えます。

例:海川商事株式会社

資産 … 5,000万円
負債 … 6,500万円
合計 … マイナス1,500万円

このような財務状況の会社があるとします。

明らかにマイナスが大きいため、M&Aでこのような会社を買う人はめったにいません。
新しい事業で目を見張るほどの成果を上げている会社など、特別な魅力がなければありえないでしょう。

今回の例である海川商事はごく普通の会社と仮定してください。

事業承継でも負債が大きければ…

こういった財務状況の会社を継ぎたいと思わないのは身内でも同じです。
また、経営者の方自身も「親族に借金を任せることは気が引ける」と思われることでしょう。

もし子供が会社を引き継ぎするとなると、その日から銀行借り入れなどの保証人になり、借金への責任を背負うのです。
会社経営が傾いて、万が一倒産した時に返済しなければならないのは他でもない自分です。

これでは後継者も尻込みするのは当然ですよね。

そのため、この状態で事業承継するのはあまり好ましくないと言えるでしょう。

借金の額はどれくらいまでならアリ?

事業承継をするにあたって、どれくらいの負債なら大丈夫なのでしょうか?
これは少し難しいですし、いろんな考え方がありますね。

年商と比較して、年商を超えたら良くない
1年の利益と比較して、利益の何倍までにする

などなどがありますが、一番シンプルなのは、

資産と負債のトータルで負債が上回らないようにする

ということではないでしょうか。
一つの基準としてこれを頭の片隅に置いていただければと思います。

分社化で負債に対応する方法

事業承継 対象企業の要件・相続税・贈与税共通の要件 事業承継 贈与
それでは続いて解決編です。
さきほどの海川商事を例にとってみましょう。

会社にとって必要な部分を事業承継する

海川商事株式会社

資産 … 5,000万円
負債 … 6,500万円
合計 … マイナス1,500万円

こういった会社の場合、どのように分社化できるのでしょうか。

例えば、資産4,000万円、負債4,000万円だけ切り離すことができれば、実質会計上はプラスマイナスゼロですよね。
株式の評価額はゼロということでM&Aでの買い手もつきますし、後継者は事業承継する上でリスクがかなり少ないことがわかると思います。

例えば、このようになります。

海川商事株式会社(旧会社)

資産 … 1,000万円
負債 … 2,500万円
合計 … マイナス1,500万円

株式会社オーシャンリバー(新会社)

資産 … 4,000万円
負債 … 4,000万円
合計 … プラスマイナス0円

いかがでしょうか?
見事に分社化できました。

分社化した新会社オーシャンリバーには、設備や事務所、従業員、売掛金、買掛金などを引き継ぎます。

そうすればプラスマイナスゼロのところからしっかり利益を出せる仕組みのみを切り出すことができるのです。
分社化は経営者が任意で必要なものを切り離せるため、場合によっては非常に有利になるのです。

負債がなくなれば事業承継もしやすい

もちろん、このような状態の会社になった場合、後継者としても非常に気が楽なはずです。

事業体はしっかりと形に残りながらも、理不尽な借金が山程あったものは背負わなくてよいのです。

このようにプレッシャーから解放するだけで、後継者も積極的に会社経営に取り組むことができるでしょうし、本来の力を出すことができるはずなのです。

ただただ苦しい財務状況の会社をそのまま継がせてしまったり廃業してしまうよりも、よほど有益な方法です。

事業承継を分社化の活用で成功させるには

特別受益の基礎知識 借金 行動
続いて、分社化を行うにあたっての重要なポイントを解説します。

経営者が元気なうちに対応を

事業承継は相続までしなくて良いと思っている方が多いのですが、それは違います。
事業承継は準備も必要で、時間もかかり、経営者としての最後にして最大の仕事です。

そして、事業承継がうまくいくのかどうかが会社が今後も生き残れるかどうかの一つの鍵になります。

例えば徳川家康は、1600年に関ヶ原の戦いで天下を手中におさめ、1603年に征夷大将軍となります。
しかし、2年後の1605年には将軍職を息子の秀忠に譲ったのです。
家康は1616年まで生き、江戸幕府は260年余り続くことになります。

このように、後継者へのしっかりとした準備と配慮を行っておくことで、会社もエネルギーを失うことなく前に進めるのです。

分社化の手続きも現在の経営者が亡くなってからでは実質利用できませんので、早めに手を打つことをオススメします。

財務状況の把握をしてオープンに取り組む

今回はざっくりとわかりやすい数字を示してみましたが、実際にはもう少し複雑です。
そのため、財務状況を把握しておかなければなりません。

また、現経営者はもちろん、後継者も「どのような財務状況の会社を引き継ぐのか」を知っておいてもらわなければなりません。

そして、今回ご紹介した分社化の事例は銀行など債権者に不当なダメージを与える意図のものではなく、経済的に正当なものであることをも知っておいてください。

そのため、銀行や後継者などにもオープンにしておくべき話です。
しっかりとした対処方法を準備しておきましょう。

残った借り入れ金はどうなるのか?

ところで、分社化によって借金が残ってしまった旧会社はどうなるのでしょうか?

もちろん返済義務は旧会社にあります。

ただし、旧会社単体では返済能力もない場合がありますので、新会社に土地を貸すなどの方法で収入を得ることもあるでしょう。
この場合は賃貸業に業務形態が変わったことになりますね。

また、経営者が債権者と交渉して分割での支払いに切り替えてもらう、自己破産してしまうというケースもあるでしょう。
こういった場合の対処方法は複雑になりますので、分社化をする際には事業承継に詳しい専門家に相談することをおすすめします。

事業承継のコンサルティングとは?相談内容や選び方をご紹介!

事業承継は長期間の準備が必須

いかがでしたでしょうか?

このように、負の遺産となってしまっている企業をそのまま継がせるのではなく、必要な部分だけを切り出してスリム化すれば、事業承継は非常にコントロールしやすくなります。

事業承継対策も色々とありますが、実は会社の状況に応じて一番適した方法というのが必ずあるはずです。

せっかくこれまで守ってきた会社ですから、従業員、取引先などをがっかりさせることなくうまく生き残れるようにしたいですよね。

是非とも時間をかけてしっかりした事業承継を実現してください。