創業者の相続から見る、僕の会社を「MAする」ということ

換価分割とは 遺産分割協議 相続 放棄

今日も朝起きて業績の数字を見る。会社を興した創業者にとっては日常で、これをしなければ1日が始まらないという方も多いでしょう。24時間365日、うるう年は366日、売上や利益が右肩上がりになる数字もしかり。「このままだと何とか来年の桜は見られそうか」という数字も然り。

では、その創業者を「卒業する」時はいつなのでしょうか。

信頼出来る後任に立場を譲ったときか、それとも残念ながら会社を倒産させてしまうときか。前者の場合は会社はそのまま世の中に存在したうえで操縦士が変わり、一方で後者の場合は世の中から会社がなくなります。ところがもうひとつ、創業者が会社の経営権を手放し、次代に託すという方法があります。いわゆる、MAと呼ばれるものです。

M&A略してMA。日本語では「事業売却」と訳されることが多いため、あまりポジティブな印象を持っていない人も多いでしょう。

ただ、実際のMAは長年にわたり会社を引っ張ってきた創業者の想いを継いだ、いわば会社の「着替え」を指します。住まいでいえばリノベーション。MAを経て、創業者の志が大きくなることも多いのです。

1、MAの持つ「削ぎ落し」という考え方

後継者不足 対策

会社を経営するのには、事業推進が何よりも大切ですが、「そればかり」に集中することはできません。組織づくりや資金調達、開発といった様々な動きが必要となります。なかにはそれらの対応で競合他社に遅れをとったり、資金量の豊富な会社に模倣をされて一気に飲みこまれてしまったりというネガティブな展開も発生します。

ただ、そこまで第一線を走り続けてきた会社には、積み重ねたノウハウがあります。技術力が高いけれどマーケティングに苦労していた会社が、マーケティングに自信がある会社にMAをして、開発に特化できる環境整備のうえで再出発を図る。MAにはこんな効力もあります。

いわばMAは、事業に本質的に関連していなかった部分を「削ぎ落す」ということ。

2、創業者の相続から見るMA

相続相談 リスクヘッジ

それではMAは、どのようなタイミングで起こるものなのでしょうか。

事業戦略の一環として、「ここからは組んだ方がいい」というMAもあるでしょう。ただ、本稿では「創業者の相続」にスポットを当てて考えてみたいと思います。

創業者は会社の意思決定をするための株式を有しています。特に創業者は全体の7割や8割といった株を有している人も多いでしょう。これらの株式は株主総会における決議権となります。

株を所有していた人が死亡すると、所有していた株は「非上場株(未公開株)」として相続資産になります。配偶者や子どもたちなど、財産を承継する立場の人に財産の一部として承継されます。

ただ、一緒に会社を大きくしてきた配偶者や、将来的に事業を引き継ぐものとして経営学や帝王学を学んできた子どもたちなら知らず、創業者の家族は、「経営をバトンタッチされても出来るわけがない」という人が多数です。

そこで、不動産などの相続対策の一環として、元気なうちに自社株(特に創業者が有している株)を処理してしまおうという考え方が生まれます。

ただ、商流上、株式会社は株主のもの。いくら創業者だからといって、所有株を売却すると、あらたにその株を所有した人が決議権を執行すると何もできなくなります。そこで、創業してからの会社の想いやそこまでの事業展開のプロセスを「引き継ぐ」うえで拡大させる、そのような動きが必要になります。それがMAです。

MA先としては、たとえば長期間に渡って卸業を担ってきた経営者であればビジネスで繋がる小売りや生産業、同じ卸売で得意分野の異なる同業他社。顧客網などがあり新規展開を予定している会社などが該当します。

3、経営者がMAを実行する時のタイミングとは?

株式譲渡  とは

では創業者が「相続対策」として、MAを実行するときのタイミングを考えてみましょう。

亡くなって創業者所有株が相続人に渡り、会社経営に影響が出るのを避けると相続時のMAではなく、相続前のMAであることは必須です。それも、創業者が会社を旗を振って動かしている「第一線」であることが望ましいでしょう。

それにはもうひとつの意味があります。経営者が積極的に事業を動かしているときは、株の価格も昇り調子にあります。利益の増加や、資金調達などが進んでいる場合も多いでしょう。仮に死亡する平均年齢を80歳として、逆計算で考えるとすれば、50歳から60歳にかけてMAをするという考え方が推奨できます。

創業者が一心不乱に大きくしてきた会社を、まだまだ元気な50歳で(経営権を)手放すのはとても勇気がいることでしょうか。ただ会社の将来を、それも長期的に見たときに「次」に託すのは、とても大切なことです。また、自社株を「相続試算」と捉え、家族が受け取るときのトラブルを考えると、その株を「商機」と考える会社が引き継ぐのはとても幸せな結末といえるでしょう。

かつ、創業者自身には「ロックアップ」という立場もあります。

会社をMAしたからといって、すぐに創業者が事業から離れるわけではありません。事業の技術的な面や人脈などは、創業者自身に寄与される場合も多いため、MAも創業者の力が必要になります。

創業者株を購入した会社は、創業者を社員として雇用し、2年や3年の「契約期間」を固定しMAのための引継ぎを実施します。この期間のことをロックアップといいます。つまり、この期間に創業者としてのノウハウをMAを行った会社や、引き継ぎ先の経営陣に事業譲渡を進め、人脈などを共有していきます。

創業者にとっては、経営者としての立場や重責を離れ、まさに事業展開に集中できる時期です。

MAはいわゆるネガティブなものではなく、会社を、そして創業者を一区切りのうえで次に展開させる、リノベーションとしての効果があるのです。

4、スタートアップでMAがエグジット(出口)と呼ばれている理由

創業者 MA

2010年代に入り、日本では新たな産業とともに、スタートアップと呼ばれる会社が増えています。

これらの会社では、いわゆる会社としての「ゴール」を定めます。ひとつは非公開の株式を「上場」させること。東京証券取引所などに上場させることによって、創業者利益を手にすると同時に、創業期から支援をして貰った投資家や投資会社に利益をもたらすことで「お返し」をしていきます。

この株式上場は英語にしたときの頭文字をとって「IPO」とも呼ばれています。

そして、もうひとつがMAです。

大企業などに購入して貰うことによって、株式公開と同様に創業者は「利益」を手にし、ゴールとすることができます。実際にスタートアップの創業者などは会社に興味を持った投資家から「IPOを目指しますか?それともMAを目指しますか?」といった質問を受けることもあります。

長期的な視点では、これから日本は産業促進のため、「起業」を増やしていく施策を増やしています。創業者にとって株式は相続試算です。相続対策として、自分の持っている会社の株をMAしていくことが、とても一般的になる。そのような会社も増えるでしょう。そこにはネガティブな要素は存在せず、創業者に対しての一区切りとなります。まるで、我が子を育てて成人式に送りだした親御さんのような気持ちでしょうか。成人式は20歳で、大学卒業は23歳(一般的に)ですので、残り3年はロックアップとして最後の時間となる。そのような意味でも両者はとても似ているのかもしれませんね。