従業員承継とは?事業を従業員へ引き継ぐメリット・デメリット・注意点を解説

事業承継 従業員

事業承継にも色々なタイプがありますが、その一つが従業員承継です。

中小企業で後継者と言えば親族になることが多いイメージがありますが、近年では後継者不足もあり、従業員に経営権を承継するケースも増えていると言っていいでしょう。

従業員承継は親族内承継の次に多いのです。

今回は従業員承継とはどういったものか?メリットとデメリット、具体的な流れと注意点まで詳しく説明します。

従業員承継とは

従業員承継
事業承継とは、経営者の最後の大仕事と言ってもいいでしょう。

せっかく築き上げた事業ですから、できるだけ後継にそのまま引き継ぎ、ハッピーリタイアを目指したいですよね。

事業承継がうまくいけば、自分の会社をしっかりと次の世代に伝えることができ、社会貢献もできる上、経営者にとっては経済的にも有益です。

従業員・役員に引き継ぐ

近年、少子高齢化の影響から後継者不足に陥る中小企業が多く、親族に後継者となる人がいない場合に従業員承継を選択する経営者が増えています。

従業員承継とは、すでに会社に関わっている従業員や役員に継いでもらう方法です。

少子化が進んでいる現代では、現実的に親族よりもふさわしい後継者が従業員となるケースも少なくないのです。

親族内承継は減っている

事業承継の中で従業員承継を選ぶケースはどれくらいあるのでしょうか?

廃業しない場合は、親族内承継、従業員承継、M&Aによる第三者企業への承継があります。

もちろん最も多いのが親族内承継です。

しかし、従業員承継やM&Aを利用する事例が増えています。

1992年には80%を超えていた親族内承継ですが、なんと現在は40%ほどまで落ち込んでいるのです。

日本社会の有り様と共に、事業承継の方法もかなり様変わりしたと言えるでしょう。

従業員承継が増えている

一方、中規模企業での従業員承継は1992年ごろのデータでは4.8%とほとんどありませんでした。

それが2012年には24.6%まで増加しているのです。

小規模企業ですら、2012年ごろには従業員承継が13.8%となっています。

意外と思われる方も多いのではないでしょうか。

このように、従業員承継を活用する経営者が増えていますが、実際にメリットはどのようなものがあるのでしょうか?

従業員承継のメリット

相続税 基礎控除

後継者を選択する幅が広い

子供に事業承継をするにあたって問題となるのは、本人が希望するかどうかという点と、本人が経営者としての手腕に欠けているという点です。

経営者の大変な姿を身近に見て「経営者よりも雇われているほうが気楽」と考える方も多いのが現実です。

一方、従業員承継の場合は、意欲を持ち、愛社精神のある有能な人物を選ぶことができます。

また、資質のある人材をいち早く見定めておけば、経営者としての育成を施すことができるという利点もあります。

実務に長けた人材を選べる

このようにして後継者として育て上げた人材は、経営者の考え方や実務を踏襲できるでしょう。

現経営者自身が健在なうちに、様々な業務を取り仕切らせたりもできるため、社長としての実務能力が備わります。

また、従業員として会社を見てきた人物であれば社内にも顔がききますし、何よりも社長よりも会社や現場のことを知っている可能性があります。

業界内の慣習なども熟知しているため、ゼロから教育する必要がないことが利点です。

企業精神の維持と発展が期待できる

中小企業経営者の方で、企業理念や哲学を持っているという方は多いのではないでしょうか?

会社が大きくなっても創業理念を大事に守っている会社も多いと思います。

もしM&Aなどによる会社の買収・合併などが行われた場合、業績が伸びたとしても経営者の創業理念や哲学が失われてしまう可能性があります。

その点、従業員承継の場合は、企業風土を肌で感じながら育ってきた愛社精神のある人材を選ぶことができるため、企業文化を次代に受け継ぐことがしやすいでしょう。

自分の作り育てた会社ですから、そのように考える経営者も多いです。

取引先や従業員の理解が得られる

事業承継をして経営陣が変わる場合に、M&Aなどが行われてしまうと従業員や取引先では違和感を覚える方もいるでしょう。

逆に親族内承継の場合は、後継者となった親族の能力が前経営者と比較され、プレッシャーになることもあります。

従業員承継の場合は承継前から取引先や金融機関との人脈を作っておくことで不信を買うことも少なく、スムーズに承継が進められるというメリットがあります。

また、従業員にも受け入れてもらいやすいでしょう。

経営者が従業員や取引先から不信感を持たれてしまうと、会社経営が滞ったり、人材の流出があるかもしれません。

従業員承継のデメリット

相続税 免除

資金力の問題

中小企業経営者のほとんどはオーナー社長であることが多いです。

つまり、後継者である従業員に会社を受け継ぐ場合、自社株を譲渡しなければなりません。

株式を受け継ぐ方法はいくつかありますが、売却するとなった場合は後継者に株式の対価を支払ってもらう必要があります。

しかし、会社の株式を全て買い上げることができるほどの資金を持っていることは多くはないでしょう。

十分な資金力を持った人の中から候補者を探すのは非常に選択肢が限られます。

また、譲渡金額を安く売り払ってしまうと、今度は現経営者が得られる資金が減ってしまいます。

こういった点は従業員承継の場合の悩ましいところです。

連帯保証人の問題

多くの中小企業では、借金がある場合、連帯保証人が経営者になっていると思います。

しかし、従業員に承継するとき、連帯保証人を後継者に引き継げないことがあります。

金融機関は貸し出しに慎重であり、後継者である従業員個人の資産では乏しいと判断する可能性があるからです。

その場合、後継者が金融機関から借入をできないという事態に陥ってしまいます。

借金がない場合はいいですが、資金の問題と同じくらい重要なので、事前に対策しておきましょう。

発展のさまたげになる

M&Aによって会社の経営陣が変わると、買い手企業との業務連携により、場合によっては会社が大きく飛躍するきっかけになります。

新たな資本が加わることによって、会社が新たな舞台に出られる可能性が出てきます。

従業員が承継する場合は、先に述べた資金力の問題もありますが、基本的には現状を維持するだけでもまずは上出来でしょう。

思い切った改革を断行したり、斬新な経営手法を打ち出すことも難しい場合が多いのです。

企業風土を守ってくれる一方で、M&Aで得られるような企業の発展の可能性は高くありません。

M&Aによる事業承継について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

事業承継のためのM&Aとは?メリットや方法、注意点をご紹介

従業員承継の流れ

従業員承継

現状をしっかりと把握する

まずは事業承継をする際に必ずしなければならないのが現状把握です。

会社の人、資産、現金、株式などを洗い出し、どのような資産があって、どのぐらいの売上があり、売上の内訳や経費はどうなっているかなども総ざらいすることが必要です。

個人所有の事業用資産がないか、負債がないか、不良債権がないか、株式を保有しているのは誰かなど、調べておきます。
従業員や人件費などもきちんと分析しましょう。

これらを把握して初めて、会社としての資産の全容を知ることができます。

そういったものがわからないまま事業承継をはじめてしまうと、後継者への資金の問題が重くのしかかることになりかねません。

また、事業承継には時間もかかります。

早めに無駄なく承継を終えるためにも現状分析は重要です。

後継者候補を選ぶ

現状把握を進めながら、後継者候補についても検討しておきます。

具体的には以下のような方が後継者になりやすいでしょう。

専務等の役員

実務や経営について把握している役員です。

仕事の手腕もある程度確かでしょうし、後継者としてふさわしいでしょう。

ただし、役員が複数いる場合は、派閥争いなどが会社内で起こってしまうことを考え、人間関係などに配慮しておく必要があります。

若手の有望な社員

従業員の中に優秀な若手がいる場合、後継者として時間をかけて育成していくのも有効です。

ある程度責任のある仕事を任せている若手であれば、現場からの信頼も厚く、後継者として頼もしいですね。

しかし、現在役職が上だったり勤務年数が多い古株との派閥争いにならないように配慮しなければなりません。

共同創業者

現経営者と共に出資をして会社に関わってきた人を後継者とすることはスムーズに承継を進める一つの手段です。

しかし、年齢をきっかけに事業承継を考えるようなケースでは、後継者も年齢が変わらないことが多く、すぐに承継の必要が出てくることもあります。

事業承継計画を立てる

後継者も決まり、現状の把握ができたら、いよいよ事業計画を立てます。

その際、具体的なことを決める事業計画計画書というものを作ります。

事業承継に関して、いつ、どのような作業をしていくのかということを明らかにした計画書です。

例としては、以下のようなものになります。

後継者の従業員を1年後に取締役に引き上げ、社内へ周知する
2年後には常務とする
4年後には副社長として取引先や金融機関へ知らせる

こういった具体的な計画を立案することによって、資本の移動も計画的に進めることができるでしょう。

具体的には会社の状況によって様々なケースがありますので、弁護士や税理士、事業承継士などの専門家に依頼するのが上策と言えます。

候補者育成

もちろん、後継者自身にも会社を引き継ぐだけの能力を養ってもらう必要がります。

会社での責任ある役職や様々な仕事を経験させたり、社内外のセミナーなどを受講させる、経営学を学んでもらうなどの経験を積ませる必要があります。

経営者のそばで行動を共にして経営者の視点というものをしっかりと吸収させるのが良いでしょう。

後継者の周知と人脈作り

事業承継をする後継者の周知は、事前に会社の内外にしなければなりません。

これは事業承継計画でもきっちりタイミングを決めておくことが重要で、タイミングを間違えるとトラブルになりかねません。

例えば役員経験のない若手社員が後継者だと社外に周知させてしまうのは、あまりメリットがあるとは思えないことですよね。

まず最初の段階では役員や経営陣に周知し、次の段階で従業員への周知とすべきでしょう。

取引先や金融機関へ伝える場合には、ある程度後継者が役職や職責を積んでからのほうが良いかと思います。

例えば副社長などに就任し、ある程度時間が経過した後であれば取引先などに周知しても問題ないと言えます。

また、その過程でしっかりと新たな経営者として仕事ができやすいように人脈を作っておくというのも忘れてはなりません。

株式の譲渡と業務引き継ぎ

周知がある程度進んだ段階から、株式の譲渡という大きな仕事に取り掛かります。

通常は売却によって株式の譲渡を行い、後継者から対価を支払ってもらいます。

もし支払えるほどの対価を後継者が持っていない場合は贈与によって引き継ぐことが考えられますが、贈与税が高額になってしまっては意味がありませんので、時間をかけてしっかり計画することが必要です。

また、事業承継作業を進めながら、社長としての実務も引き継ぎしていきます。

従業員承継の注意点

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人選には細心の注意を

後継者を誰にすべきかということで、それぞれ良い点と悪い点があることは先程述べた通りです。

そのため、人選こそが最も重要な事業承継の仕事だと言っても過言ではありません。

手腕だけでなく、人柄、コミュニケーション能力、意欲、会社に対する思いなども重要です。

本人の意思

経営者は従業員を部下として見ているため、本人の了承を取らずに「後継者として指名すれば断るはずはないだろう」と判断してしまうことがあります。

ここは大きな落とし穴です。

経営者になるということは、それなりの覚悟やリスクも伴うものであり、従業員のまま居続けるという事とは非常に大きな違いがあるため、二つ返事で受けてもらえるケースの方がむしろ珍しいのではないでしょうか。

経営者となると、借入金の保証人になる必要がありますし、経営判断もこれまでの仕事とは重要性が全く違います。

実際に後継者と目していた相手に、後継者になることを切り出した場合に断られてしまうことがあることも想定しましょう。

そのためには、この人だと決めた人材を説得するための理由やサポート・育成の計画などをしっかりと伝えることも重要でしょう。

資金面でのサポート

従業員承継をする場合、従業員には自社株を買い取ってもらう必要があります。

そのため、資金不足が高いハードルになります。

役員待遇として報酬を得ていても、それだけのお金を用意することは簡単ではありません。

例えば贈与を活用したり、事業承継ローンを利用する、早い段階で役員として取り立てるなどの方法が有効です。

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個人保証の引き継ぎ

中小企業経営者は、オーナー社長が会社の借り入れの保証人になっていることが多いです。

また、個人所有の資産を会社の借入金の担保にしている場合もあります。

事業承継の後にもこのような保証がついてまわるのはできれば避けたいことですよね。

事業承継のときには、後継者にこのような保証人としての役割も引き継ぐ必要がありますが、それには金融機関の了承が必要です。

そのため、金融機関に現経営者と同等の信用度があると判断してもらわなければ、保証人を移すことができないかもしれません。

有効な方法としては、借入額を減らすということも考えてみる必要があります。

後継者にも貸し出せるくらいの金額になれば、保証人として現経営者を外すこともできる可能性があります。

また、現経営者が完全に引退するわけではなく、相談役や会長におさまって会社に関わることで金融機関からの信用を得られることも考えられます。

株式譲渡の3つの方法

従業員承継

対価を伴う方法

従業員承継の場合の基本的な形としては、株式の譲渡です。

つまり、後継者に自社株を買い取ってもらうという方法です。

株式の所有をすることで、会社の支配権を後継者が完全に持つことができるため、株主総会などでもはっきりした主導力を持つことができ、会社経営を円滑に進めることができます。

ただし、先程述べたような資金の問題が出てくることでしょう。

贈与、遺贈

後継者に十分な資金力がなかったり、資金力をたくわえる時間がない場合には贈与をして株式を譲り渡すという方法もあります。

ただし、この方法では贈与税がかかってきてしまうため、できるだけ贈与税がかからない方法を取る必要がああります。

ただし、経営者に子供がいたりなど相続人が複数人いるようなケースでは、家族に了承を得る必要があります。

もし了承を得ずに遺贈などをしてしまうと、遺留分減殺請求などを起こされ、自社株の分散を招く要因となります。

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経営権だけ譲渡する方法

社長のイスを譲ることはしますが、株式の移転をしないという方法です。

つまり「経営権」と「所有権」が分離し、オーナー社長ではなくなります。

こうなった場合、経営者は重大な決定について株主総会で議決を取ることができなくなり、決定権を持ちません。

会社の定款を変更するなど重大な決定をする場合に、毎回株主の了承を得る必要が出てきます。

中小企業の場合は特に、株主と社長が分離してしまうと、会社の経営に支障が出ることがあります。

もし現経営者の相続人が自社株を相続した場合、相続人にも迷惑がかかることがあります。

基本的には後継者へは計画的に資金のサポートを行い、事業承継のしめくくりとして株式を全て譲り渡したいですね。

株式譲渡について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

株式譲渡の手続きや契約書・税金などについて丁寧に解説!

従業員承継を専門家に依頼するメリット

事業継承 相談

金融機関との交渉

先程も述べたとおり、事業承継する場合には社長個人の個人保証、担保の組み換えが必要です。

金融機関の担当者にいかに納得してもらえるかという点が重要になるため、しっかりと「安心できる条件」を整えて交渉に臨む必要があります。

その点、専門家なら具体的に先方がイエスと言いやすい条件をきっちり揃えてくれることでしょう。

また、弁護士などに依頼すれば説得も進めてくれるので、前に進みやすくなります。

現実的な立案

事業承継の経験は、普通の経営者にはあまりないはずです。

一方で、弁護士や税理士など、事業承継が得意な専門職の方はたくさんいます。

そういった方は後継者への資金サポートの面や、節税対策なども熟知していることが多く、いかに企業体力を低下させずに事業承継をスピーディにできるかというところまでを考えることができます。

自分たちだけで実行に移すとなると、活用できるものに気づかなかったり、計画も無理なものになってしまうことがあります。

事業承継を甘く見てしまうとリスクが大きくなるので注意しましょう。

間違った判断を避けられる

事業承継はすぐに終わるようなものではありません。

長期に渡り、大局的な視点で対応する必要のある大仕事なのはもうおわかりでしょう。

数年以上かかることもよくあります。

しっかりとした判断が必要になる中で、事業承継の経験値が高いプロに仕事を依頼することで、理想的な形で事業承継を終えることが可能になります。

様々な場面での調整

弁護士に事業承継の仕事を依頼した場合、役員や金融機関の説得にあたってもらえるなど、様々な面で頼りにすることができるでしょう。

現経営者の遺産相続を希望している相続人との間の話し合いなども、法律的な側面からきっちり立案・説明してくれることもあり、かなり頼りになる存在だと言えます。

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平成30年の事業承継税制改正により、事業承継が行いやすくなる

平成30年4月に事業承継税制改正により、事業承継が行いやすくなりました。

具体的には、資金が少なくても後継者に事業承継を行えることや納税を猶予・免除される等といったメリットがあります。このようなメリットを享受するためには、一定要件を満たす必要があり、長期的な事業承継のプランを立てることが必要です。

しかし、長期的なプランを立てることは、雇用の確保、継続的な事業発展につながるので損はないでしょう。また、この税制改正は10年間の特例措置であるため注意が必要です。

今回の税制改正は中小企業の事業承継において、かなり有利な内容となっています。詳しくは以下の記事を参考にしてください。

事業承継税制とは?適用要件や平成30年度改正のポイントも解説

従業員への事業承継は専門家への相談・依頼を

いかがでしたでしょうか?

事業承継という仕事が簡単にはいかない大きな仕事であることはおわかりいただけたかと思います。

法律上の知識、税法の知識はもちろんのこと、後継者や社内での調整まで、実に幅広い視点で進めなければならないものです。

事業承継を少しでも考えることがあれば、それはもう事業承継の計画を開始して良いタイミングではないでしょうか。

また、事業承継と言えば経営者の引退などを連想させるものであることから、なかなか本人以外の方から提案するのは難しいことです。
経営者自身が先頭に立って進めて行く必要があるでしょう。