中小企業の廃業や後継者問題はM&Aで解決?全国の事業承継の現状を解説

 

中小企業 M&A

中小企業におけるM&Aの事例が急激に増加しています。

2011年には157件だった中小企業におけるM&Aの件数は、2017年には526件とおよそ3倍にまで増加しています。

なぜこれまで中小企業におけるM&Aの需要が増えているのでしょうか。

この記事では、その背景について考えていきます。

M&Aは大企業だけのものではない時代に

日本社会が高齢化していることと比例し、日本の企業経営者も高齢化が進行しています。

中小企業庁の調査によると中小企業経営者の年齢分布のピークは66歳といわれます。

これに関連して、経営者の引退年齢も中規模企業で67.7歳、小規模企業では70.5歳と、調査のたびに上昇傾向にあります。

さらに中小企業庁の調査では、2025年までに70歳を超える経営者の数は245万人にのぼると見込まれています。

経営者が高齢化している裏には、後を継ぐ人材の不在も一因として挙げられ、最終的に後継者がいないために事業を続けることができず、廃業が増加すると考えられています。

日経新聞(2018年5月28日朝刊)の記事によれば、「国は中小企業の廃業で2025年までに国内総生産(GDP)が22兆円損失する恐れがある」とされ、今後深刻な社会問題化する可能性が高いと考えられています。

中小企業の廃業理由は後継者問題

M&A 中小企業の廃業理由は後継者問題

企業が廃業を決意する理由には、「そもそも自分の代でやめるつもりであった」とか、「経営者自身の高齢化」など様々ありますが、多いのは「後継者の不在」です。

企業によっては業績は悪くないけれど、後継者がいないがために、廃業を選択し、従業員に退職金を払って円満に会社をたたむというケースもあるのです。

もちろん、業績がすこぶる良ければ誰かしら継ぎたい人もいそうなものですから、こうした調査結果も額面通り受け止められないところはありますが、いずれにせよ廃業しようとする会社がすべてダメになった会社というわけではありません。

都道府県別廃業・開業の状況

M&A 都道府県別廃業・開業の状況

廃業率について厚生労働省「平成27年度雇用保険事業年報」にもとづきみてみると、全国平均で3.8%となっています。ちなみに開業率は、同様に全国平均で5.2%となっています。

都道府県別の廃業率に目を向けると、当然でありますが一様ではありません。

廃業率が高いトップ3の都道府県をあげると、1位滋賀県(4.9%)、2位京都府(4.6%)、3位福岡県(4.4%)となっています。

これもまた参考までに滋賀県・京都府・福岡県の開業率をみると低くはない(開業率が低いトップ3は秋田県、新潟県、島根県の順)ことから、開業率・廃業率は別のメカニズムの結果といえそうです。

また、廃業自体は個々の企業の問題ですが、その影響は地域社会に広く及ぶため、行政サイドにとっても無視できない問題として一層関心が高まっていくと考えられます。

表 都道府県別開廃業率

都道府県

廃業率

開業率

都道府県

廃業率

開業率

北 海 道

4.3%

4.2%

滋   賀

4.9%

4.3%

青   森

3.7%

3.6%

京   都

4.6%

4.7%

岩   手

3.4%

3.4%

大   阪

3.6%

5.9%

宮   城

3.3%

5.3%

兵   庫

4.2%

5.2%

秋   田

3.5%

2.8%

奈   良

4.3%

4.7%

山   形

3.2%

3.4%

和 歌 山

3.1%

4.5%

福   島

3.1%

5.3%

鳥   取

3.5%

4.2%

茨   城

3.3%

5.3%

島   根

4.2%

3.3%

栃   木

3.3%

4.4%

岡   山

3.7%

4.8%

群   馬

3.8%

5.1%

広   島

3.6%

4.4%

埼   玉

3.5%

6.8%

山   口

3.6%

4.1%

千   葉

4.3%

6.5%

徳   島

2.9%

4.2%

東   京

3.7%

5.6%

香   川

3.2%

4.3%

神 奈 川

4.1%

6.3%

愛   媛

3.8%

4.5%

新   潟

3.4%

3.1%

高   知

3.6%

4.1%

富   山

3.5%

3.7%

福   岡

4.4%

6.1%

石   川

3.5%

4.3%

佐   賀

3.6%

4.7%

福   井

3.3%

3.7%

長   崎

3.6%

4.1%

山   梨

3.5%

4.7%

熊   本

3.2%

5.3%

長   野

4.0%

4.0%

大   分

4.0%

4.6%

岐   阜

3.7%

4.6%

宮   崎

4.1%

4.8%

静   岡

3.9%

4.6%

鹿 児 島

3.5%

4.3%

愛   知

4.0%

6.1%

沖   縄

3.7%

7.0%

三   重

3.6%

5.3%

全 国 計

3.8%

5.2%

資料:厚生労働省「平成27年度雇用保険事業年報」

(注)

  1. 開業率=当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数/前年度平均の適用事業所数×100
  2. 廃業率=当該年度に雇用関係が消滅した事業所数/前年度平均の適用事業所数×100
  3. 適用事業所とは、雇用保険に係る労働保険の保険関係が成立している事業所である(雇用保険法第5条)。

事業承継の支援拠点は全国に

M&A 事業承継の支援拠点は全国に

後継者が不在で、かつ引き続き会社経営については継続したいと考える企業経営者にとって、いわゆるM&Aは有効な手段ですが、これまでM&Aは大企業を中心に取り扱われてきたため、中小企業にとってはどこか遠くの世界の出来事でした。

実際M&Aマーケットは大企業を対象としてM&A専門会社や金融機関などがサービスを提供している一方、日本企業の99%以上を占める中小企業向けのサービスを行う民間の担い手は圧倒的に少ないのが現状です。

独立行政法人中小企業基盤整備機構による「事業承継実態調査報告書2011」によれば、実に4割以上の経営者がM&Aに抵抗感があると回答しています。

その一方でほぼ同数の経営者は抵抗感がないと回答しており、経営者の認識は二極化しています。ここからは個人的な推測ですが、今後M&Aの実績が社会に増えていくにつれて、抵抗感は薄らいでいくのではないかと思います。

かつて私がお話をうかがった都内の食品加工の会社は全従業員10人足らずの小さな会社でしたが、経営者の方が高齢になったものの娘さんは既に嫁いでおり会社を継ぐ気はないなかで、今いる従業員の雇用を守ることと、他社にはない特殊な加工ができる独自技術を残したい思いで第三者への売却を検討し、金融機関や公的窓口に相談されていらっしゃいました。

中小の製造業企業の経営者に多い技術者から経営者に転じたタイプでしたので、長い年月をかけて改良を重ねた自社オリジナルの機械設備に対する思い入れが強かった印象でした。

その社長さんは複数社交渉され、最終的には全くご縁のなかった企業に売却を決意されました。

このような規模の企業でも成立するんだな、と感心した記憶がありますが、決め手は売却相手企業の社長が自ら工場に足を運び、技術を学びにきてくれた姿勢とのことでしたので、きっと経営者同士通じ合うものがあったのでしょう。

事業承継のニーズに対応するため、平成29~30年の2カ年間に整備が進められている「事業承継ネットワーク」と名付けられた支援組織体制は、各都道府県庁のリーダーシップのもとに商工会・商工会議所、金融機関、士業専門家等が集まり、包括的な支援体制を目指しています。

中小企業の事業承継支援のなかでもM&A支援に関しては、既に各都道府県内に設置されている「事業引継ぎ支援センター」があるほか、信用金庫など地域金融機関も相談対応してきた実績がありました。

しかし支援活動の広がりという点では、まだ限定的だったのだろうと思います。中小企業の事業承継全般の情報ネットワークが確立することで、さらに中小企業におけるM&Aの実現可能性も高まると言えます。

M&Aを実行する方法やメリット・デメリットについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

M&Aとは?その目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

表 全国の事業引き継ぎ支援センター

相談窓口名

設置主体

連絡先

北海道事業引継ぎ支援センター 札幌商工会議所 011-222-3111
青森県事業引継ぎ支援センター (公財)21あおもり産業総合支援センター 017-777-4066
岩手県事業引継ぎ支援センター 盛岡商工会議所 019-601-5079
宮城県事業引継ぎ支援センター (公財)みやぎ産業振興機構 022-722-3884
秋田県事業引継ぎ支援センター 秋田商工会議所 018-883-3551
山形県事業引継ぎ支援センター (公財)山形県企業振興公社 023-647-0664
福島県事業引継ぎ支援センター (公財)福島県産業振興センター 024-954-4163
茨城県事業引継ぎ支援センター 水戸商工会議所 029-284-1601
栃木県事業引継ぎ支援センター 宇都宮商工会議所 028-612-4338
群馬県事業引継ぎ支援センター (公財)群馬県産業支援機構 027-226-6115
埼玉県事業引継ぎ支援センター さいたま商工会議所 048-711-6326
千葉県事業引継ぎ支援センター 千葉商工会議所 043-305-5272
東京都事業引継ぎ支援センター 東京商工会議所 03-3283-7555
神奈川県事業引継ぎ支援センター (公財)神奈川産業振興センター 045-633-5061
新潟県事業引継ぎ支援センター (公財)にいがた産業創造機構 025-246-0080
富山県事業引継ぎ支援センター (公財)富山県新世紀産業機構 076-444-5605
石川県事業引継ぎ支援センター (公財)石川県産業創出支援機構 076-267-1244
福井県事業引継ぎ支援センター 福井商工会議所 0776-33-8283
山梨県事業引継ぎ支援センター (公財)やまなし産業支援機構 055-243-1888
長野県事業引継ぎ支援センター (公財)長野県中小企業振興センター 026-219-3825
岐阜県事業引継ぎ支援センター 岐阜商工会議所 058-264-2133
静岡県事業引継ぎ支援センター 静岡商工会議所 054-275-1881
愛知県事業引継ぎ支援センター 名古屋商工会議所 052-228-7117
三重県事業引継ぎ支援センター (公財)三重県産業支援センター 059-253-3154
滋賀県事業引継ぎ支援センター 大津商工会議所 077-511-1500
京都府事業引継ぎ支援センター 京都商工会議所 075-255-7101
大阪府事業引継ぎ支援センター 大阪商工会議所 06-6944-6257
兵庫県事業引継ぎ支援センター 神戸商工会議所 078-367-2010
奈良県事業引継ぎ支援センター 奈良商工会議所 0742-26-6222
和歌山県事業引継ぎ支援センター 和歌山商工会議所 073-422-1111
鳥取県事業引継ぎ支援センター (公財)鳥取県産業振興機構 0857-20-0072
島根県事業引継ぎ支援センター 松江商工会議所 0852-33-7501
岡山県事業引継ぎ支援センター (公財)岡山県産業振興財団 086-286-9708
広島県事業引継ぎ支援センター 広島商工会議所 082-555-9993
山口県事業引継ぎ支援センター (公財)やまぐち産業振興財団 083-922-3700
徳島県事業引継ぎ支援センター 徳島商工会議所 088-679-1400
香川県事業引継ぎ支援センター 高松商工会議所 087-802-3033
愛媛県事業引継ぎ支援センター 松山商工会議所 089-948-8511
高知県事業引継ぎ支援センター 高知商工会議所 088-855-7748
福岡県事業引継ぎ支援センター 福岡商工会議所 092-441-6922
佐賀県事業引継ぎ支援センター 佐賀商工会議所 0952-20-0345
長崎県事業引継ぎ支援センター 長崎商工会議所 095-822-0111
熊本県事業引継ぎ支援センター 熊本商工会議所 096-311-5030
大分県事業引継ぎ支援センター 大分県商工会連合会 097-585-5010
宮崎県事業引継ぎ支援センター 宮崎商工会議所 0985-22-2161
鹿児島県事業引継ぎ支援センター 鹿児島商工会議所 099-225-9533
沖縄県事業引継ぎ支援センター 那覇商工会議所 098-941-1690

注)事業引継ぎ支援センターは「産業競争力強化法」に基づき、国が上記機関に委託して実施している事業。事業承継の方策を利害関係の無い第三者の専門家が経験に基づいてアドバイスしている。

この事業承継ネットワークの仕組みのポイントは、文字通り支援機関同士が横につながることにより、これまで支援する側の手駒の範囲の中で行われていた支援から、事業承継を必要とする経営者の立場にたった、幅広い支援体制に転換しようとしている点にあります。

ほんとうの意味でワンストップサービスが期待されるところです。

前述した滋賀県でも、廃業率全国ナンバーワンという嬉しくない結果が公表されると、今年5月には滋賀県や国、商工団体、公的支援機関や公認会計士など44団体により事業承継を支援する「滋賀県事業承継ネットワーク」を立ち上げましたことが新聞で報じられました。

今後は、経営者向けセミナー開催を通じて啓発活動に努めるほか、全国の後継者候補と相談者のマッチング支援を予定しています。さらに、事業承継に関する情報を一元的に集約したサイトを構築し、各団体が実施する事業承継関連施策の情報提供を行うとしています。

滋賀県に限らず、こうしたネットワークが今後全都道府県に整備され、さらには都道府県の垣根を超えて日本の中の一つの社会インフラとして存在感を発揮していくと思われます。

今後、中小企業の事業承継・M&Aに対する社会の関心が高まり、環境が整えば整うほど新たな需要を掘り起こす可能性があります。

以前、都市部の待機児童問題がさかんにニュースで取り上げられましたが、構造的にはよく似た状況が発生するかもしれません。そうしますと公共サービスだけでなく、民間による中小企業の事業承継を支援するサービスの担い手が一層必要になると考えられます。

そのためには、現在は地域の事業承継支援の核として存在する事業引き継し支援センターが保有するデータベースを開放し、税理士や公認会計士等の専門家と情報共有を図ることが、民間サービスによる参入拡大の第一歩となりそうです。

日本においては、第三者への事業承継を検討している企業情報はとても機微な情報のように思えるのですが、海外では日本よりはるかにドライに受け止められているようで、インターネット上で企業売買取引ができるサイトも開設されていたり、フランスの例では政府系金融機関が主体となって事業承継の全国取引所が開設されているそうです。

国民性もありますが、将来的には日本にもこうしたインフラが登場するかもしれません。

経営スキルを有する人材の活躍に期待が集まる

経営スキルを有する人材の活躍に期待が集まる

民間のサービス支援者の拡大とともに重要なのが、事業の引継ぎ手とのマッチングの促進です。

引き継ぐ先の有力なひとつとして想定されているのが、サプライチェーンの取引先です。

サプライチェーンにとって、なくてはならない存在であれば、傘下に取り込む必然性も高いといえます。製造業の世界では、数少ない加工技術をもっている企業が廃業するので、技能者が残る条件で買収したという話も耳にします。

また、起業家に着目し、事業をやめる経営者とマッチングさせることにより、ゼロから創業するよりも最短距離で事業の実現を可能にする道も想定されます。

簡単な例をあげれば、飲食店をやりたい若者が、店をたたむ意向の経営者から継業(けいぎょう)させてもらい、しばらく指導を仰ぎながら、やがて店舗と顧客を引き継ぐといったイメージです。経営意欲のあるUターン・Iターン希望者なども候補として期待されます。

さらには、経営幹部を経験した人材を次期経営者として招致するケースも、事業承継のマーケット情報が流動化してくれば、中小企業においても今後増えてくるでしょう。

場合によっては事業承継後しオーナーが変わっても、経営自体は別の外部の優秀な人材に託すというやり方もあるかもしれません。

既に各都道府県の事業引き継ぎ支援センターでは、引き継ぎ手として希望する人材を登録して、後継者を必要としている経営者とマッチングさせるためのデータバンクが整備されています、あまり知られていませんが、創業を検討されている方などは選択肢のひとつとしてみるのもよいでしょう。

このように、これまで一企業の問題として扱われ経営者が一人で悩んでいた事業承継の問題は、これからは社会問題と位置づけられ、公共・民間の支援組織や人材さらにはネットワークを活用して対処していく枠組みが全国各地に整いました。

今後はその枠組の中を埋めていく民間のプレイヤーや担い手としての経営人材などのさらなる掘り起こしが求められるでしょう。