日本のホラクラシー型組織の先駆者に訊く、11年やってわかったこととは?

 

「ティール組織」、「ホラクラシー 組織」・・・これらは今までの固定観念を覆す組織のかたちと言われ、日本でも徐々に認知度が上がってきています。

しかし、言葉は聞いたことがあっても、実際どういうものなのかよくわかっていないという人も少なくないでしょう。

そこで今回は、日本のホラクラシーのパイオニアであり、今年でホラクラシー型組織・経営歴11年のダイヤモンドメディア(株)代表 武井浩三氏にお話を伺いました。

 

プロフィール

ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役  武井浩三 (たけいこうぞう)

不動産仲介業者・管理会社・オーナー向けに特化したWebマーケティングソリューション、管理会社の募集業務を充実化・効率化させるリーシングマネジメントシステムを提供。米国の超優良EC企業ザッポスが導入し、世界が注目する組織手法ホラクラシー(自律・自走組織)経営を実践。第3回ホワイト企業大賞を受賞する。

社長の武井氏は神奈川生まれ。高校卒業後、米国ロサンゼルスに留学。帰国後、起業するも1年で倒産。最初の会社を経営していた時に出会った今の共同創業者の小林氏、染谷氏らと2007年にダイヤモンドメディアを創業。

 

 

1.ヒエラルキーは機械、ホラクラシーは生き物

 

ー ホラクラシーな会社ってどんなものなんですか?

 

そもそも従来のヒエラルキー型の組織は機械なんです。トップがいて、トップが経営判断してトップが決めた施策を円滑に滞りなく進めるために仕事を因数分解して装置を作る。

でも、僕は「会社って生き物だ」と思っていて。僕たちの会社では、上司・部下の関係がないので立体的で、機能や役割で分解できず、不可逆的な時間軸を持ってる。

中央集権で統治するのではなく、P2Pで統治している。仮想通貨やブロックチェーンと全く同じ考え方ですね。自然の摂理に沿って作る組織なんです。

 

2.こんなに違う!?アメリカと日本のホラクラシー

ちなみにこの「ホラクラシー」はアメリカで生まれた言葉ですが、アメリカで生まれたホラクラシーとダイヤモンドメディアが実践している「ホラクラシー的な」組織運営は正確には同じものじゃないんです。

目指しているもの、理想は一緒なんですけど、そこにたどり着くまでのプロセスが全然違う。

アメリカのホラクラシーはジョブディスクリプションが明確になっていることを前提とした、厳密に設計されたマネジメント手法

対して僕たちが実践しているのホラクラシー経営は厳密な「手法」ではなく、「自由かつ自律的なワークスタイルを実践することこそ、企業を支える力の根源になる」という組織運営の「思想」に近いものです

まずジョブディスクリプションとは何かというと、その人の職務を明確にし、評価と賃金をつなぐものです。

たとえば誰か人を採用するとき、ジョブディスクリプションを設定する場合は「今度のマーケティング担当者にはこの仕事とこの仕事をしてもらう」「それぞれのKPIはこれ」、「達成してほしいレベルはコレ」、という風に業務委託の約束のようなものを厳密に作ります。

そしてその条件で入社した人はそれ以外の仕事をやらなくていい。むしろやってはいけないんです。

自分の仕事が早く終わって手が空いて、仕事が遅れている人がいてもそれは遅れている人の成果を奪うことになるからと。

たとえそれが会社にとっても、周囲の人間たちにとって良いことでも、「君の正当な評価が崩れるからやらないでくれ」と言われるんです。

日本人の常識だと考えられないくらい自分と他人というものを分離しているですね。おそらくキリスト教的な世界観からきてるんじゃないかと思うんですけど。

しかし、日本では困ってるときはお互いさまというか、互助の精神が尊ばれる。

だから実際、1990年代に成果主義と一緒にジョブディスクリプションが輸入されたときも、結局日本には根付かなかったんです。

別にこれは良い悪いの話ではなくて、あくまで文化の違いだと僕は考えます自分と他人、もっと言えば自分と「世界」、自分と「自然」といったものを分けるか分けないかという考え方の違い

僕はこの、自分と他人を分け隔てて考えないことは良いことだと思ってて。困っているときは助け合えるように、しかも会社の内部だけでなく外部とも、という風に組織をデザインしてきました。

だから僕らのやり方をアメリカに持って行っても実現することは難しいかもしれないですね。

3.目標、ノルマ、経営計画、ビジョン、全てなし

 

ー 実際にはどういう風に仕事をしているんですか?

 

社外の方から面白がってもらえる取り組みはいくつかありますが、一番驚かれるのは情報、特にお金に関する情報の透明性ですね。僕たちの会社では、基本的にお金の情報はすべてオープンなんですよ。

給料から、会社の売り上げ、預金残高まで、全ての情報が社内に公開されています。

だからみんな、何らかの判断が必要な時にはそれらの数字を見たり、周囲のメンバーと話し合いながら考えます。

それから僕たちの会社には、目標もノルマも経営計画もビジョンも理念もないんです。売り上げと給与が連動することもありません。

 

目標や達成すべきノルマがないから「良い仕事をする」という方向性だけを共有して仕事をしています。

今手がけている仕事がどうしたらもっとお客さんに価値をもたらすことができるか、業界にとってプラスになるか、会社にとってよくなるか。そういう本質的なことに集中できる環境作りを心がけています。

 

もちろんもっと売上を拡大させる方向に舵を切れば短期的な売上は伸びていくかもしれません。

でも僕は世の中にとって本当に価値のある事業、会社を作りたいんです。そのために会社の全員が価値に向き合えるようにしたいので、そのために邪魔なものはなるべく取り除いています

この考え方が、ヒエラルキー組織との違いの一つです。会社の成長をコントロールできると思うか思わないかというか。

もちろんメンバー個人の中には、「会社を大きくしたい」とか、「もっと売上を上げたい」とか、「お客さんの数を増やしたい」とか、想いはあると思いますけどね。

僕にももちろんありますし。でもそれを会社の中心に置いた瞬間に会社の方向性が歪んじゃうと思っているので、それをできない仕組みにしてます。

 

4.特定の責任者は不在!関わる全員が責任者

ホラクラシー 武井浩三

 

ー そのやり方で問題って起きないんですか?

 

うちの会社も人が増えたり、ビジネス、事業内容が変わったりすると一般的な企業と同じように問題とか歪みは普通に起きますよ。

別にホラクラシーだからパーフェクトな会社かというと、そういう訳じゃないんです。お金の問題、人の問題、仕事の問題、クレームやサービスの質の問題だったりといくらでも出てきますしね。

 

でも僕が重要だと思ってるのはそうした問題が出たとき、出た後に組織としてどう対応していくかですよね。

僕たちの会社では情報を全部オープンにすることで構造的に隠し事が発生しない会社づくりを心がけているので、問題が発生するとすぐに浮かび上がるんですよ。

上司や責任者のような、「この問題はこの人が解決する」っていう決まった人がいないんで、みんなでどうしよう、どうしようって話し合いますだから普通に考えると面倒くさいです。

 

でもだからこそみんなでそれを問題として捉えて考えるし、責任感が強くなるんです。

これが課長や部長がいて、管理責任だとか現場責任だとか考えだすと、お前のせいだとかあいつが勝手にやったことだから関係ないとかってなるじゃないですか。でもそれっておかしいと思っていて。

会社って、仕事ってみんなでやってるものだから、問題が発生した時に誰か一人の責任だということはありえないと思うんです。

 

でもそんなときに犯人捜し出来ちゃうとしちゃうのが人で。でも犯人探しができない構造だと、どうしたらこの問題を解決できるか、再発しない根本的な解決ができるかにすぐに意識が向くんです。

もちろんそうしたからといって必ず問題が解決できるということでもないんですけど。けど、「どうしたらいいか?」っていう生産的な方向にみんなが意識を向けられるということは重要ですよね。

 

5.ホラクラシー組織に必要な三原則とは?

 

ー 非営利でも適用できるのですか?

 

ホラクラシー組織をつくるときに難しい問題の一つに、収益の分配をどうするかというものがあります。

だから、ボランティア団体などの非営利組織では上手くいくことが比較的多いんじゃないでしょうか。もちろん組織の人たちの深い理解がなければ難しいと思いますが。

 

ー 実際にはどのようなことをして作るのですか?

 

ホラクラシー組織を作るときに絶対必要な三つの要素があり、そこからアプローチしていくことが近道です。

「透明性」「流動性」「開放性」の三つなんですけど。

まずは透明性。具体的には、情報の透明性ですね。コミュニケーションや知識などから、給与・経費を含む全てのお金の流れまで全てを透明にしていきます。

ゼロから手を付けるならこの「透明性の確立」が最初です。情報格差をなくすのは、メンバー一人一人が早く、正しい判断をできるようにするための絶対条件ですね。

流動性は役職やポジション、もっと言えばその人の役割自体を固定化させないことです。

開放性は物理的な壁や部署間の壁、個人と個人の壁をなくしていくことです。つまり心を通わせていくってことですね。

この三つの要素を満たした環境を作ることがまず前提としてあります。そのためにどいういう制度や仕組みが適しているのか、は状況に応じて変わっていくので、柔軟に変えていきます。

 

6.制度は人と事業によって最適化する!

 

ー じゃあ制度は結構変わるのですか?

 

しょっちゅう変わりますね。人数が増えると変わるし、ビジネス内容が変わっても変わります。

事業内容の変化が制度には一番影響大きいかな。会社の中心は事業。事業に合わせて全部の制度が最適化されていなければ事業が弱くなっていってしまいます。

会社のメンバー、手がけている事業、ビジネス環境、顧客のニーズ、それらを含めて常に制度を最適化できるよう柔軟性を持たせるのが重要ですね。

 

組織論や制度設計だけを研究して仕組みを作っていこうとしても解決できる問題はそこまで多くないと思います。なぜかというと、「ビジネスモデル」に対する配慮がないから。

そういうところを合わせないと、「言ってることは間違ってないけどなんかつらい」ってことになりますね。

 

ー 事業内容や規模とかに合わせて制度を作り直していくことは最初からできてたのですか?

 

うーん。そこは今も昔も変わらないんでよくわからないですけど。

ただ、みんなの声を定期的に集める仕組みはあるかもしれません。上司・部下などの関係性がないため、周囲の顔色をうかがうことなく自分の思いを表面化させやすいとは思います。だから歪みも顕在化しやすいですよね。

走り始めた新しい制度や今まで続いてきた仕組みであっても、なんかおかしいな、この仕組みちょっとイマイチな気がするな、と思った時点ですぐに表に出せるのが大事ですね。そのためにも土壌づくりは重要で。

なので、3つの原則は絶対に守る。その上で、働く人たちが自分たちにとって最適な形を模索していくことで、自然に制度ができたり、制度を進化させていくことを大切にしています。

 

ー じゃあ体系化とかはできないんですかね?

 

そうですね。プロセスという時間軸も必要なので、こうすればこうなる、という公式のようなものは作れません。

そもそも組織づくりに答えってないので……。人間の人生でもそうですけど、誰か一人との出会いとか、偶発的ななもので思いっきり方向変わったりしますよね。

それぐらい将来って予測できないもの。それなのに無理して予測しても意味ないよね、っていうのが僕らの感覚で。

けど、だからといって無計画に取り組むのは無責任だと思うので、「シミュレーション」は沢山します予算や売上目標、経営計画などとかは作らないですけど。

「こんなかんじで顧客が増えていく想定だとこのぐらいの売り上げになるかもね」

「それならこれぐらいのコストがかかるね」

「損益分岐点はこのあたりを見ておいたほうがいいね」

「じゃあこのれくらいならもう少し投資できるかな」

とか、そいうのをずーっとやってますね。

 

7.「僕も正解はわからない」

 

ー これから起業しようという人はミッションを持っていなくてもいいのでしょうか?それとも、最初はそれで仲間を集めて、走り出してからはあえて掲げないほうがいいのでしょうか?

 

いやー、僕もわからないんですよね。人それぞれ違うから。僕はもう一度こういう組織を作れと言われたらきっと何度でも作れます。

自分なりのやり方もあるし、会計周りとかお金のところでどうやって実現するかとかも見えててきたから。

 

でも会社ってそれぞれ全然違うんで。ダイヤモンドメディアでは、今までの自分たちの経験を活かして組織コンサルティングもやってるんです。

既存のヒエラルキー型の会社に対して、ホラクラシー型とかティール型とかぼくらみたいな自然(じねん)経営のスタイルに移行するためのコンサルティングを手がけています。

 

でもやっぱり会社ってそれぞれ全然違うんですよね。創業者のカラーも違いますし、集まってる人のキャラクターも、会社が歩んできたプロセスも違う。

そうなると、やることは違いますし。もちろん3つの絶対条件は変わらないんですけど、そこに至るまでの過程が全然違うだから、どっちがいいとかはわかんないですね。

 

8.なぜ、ホラクラシーはこれからの日本に必要なのか?

 

ー 今、ホラクラシーが世界的にも注目されてきていますが、それはなぜなんでしょう?

 

これからの時代に必要だから、ですね。

なぜホラクラシーのような経営スタイルが必要になってきたかというと、未来が予測できない時代、GDP増大が見込めない時代になってきてるからです。昔は予測可能でGDP増大を前提とした経営スタイルだったんですよね。

たとえば日本の高度成長期時代とか、今の東南アジアなんかもそうです。とにかく物質的に豊かになる必要があった。経営スタイルなんてどうでもいいから、めちゃくちゃ働くからお金くれ。

そっちのほうがみんな幸せになるから、っていうことだったと思うんです。でも、そうじゃなくなってきているのはなぜか。

 

理由としては2つあると思ってて。

1つ目はシンプルにITが発達して情報の格差がなくなってきているってこと。

それによって世界がVUCA(ブーカ)の時代と呼ばれる、予測不可能な時代にはいってきた

 

2つ目は一部の国で人口が減りはじめたということ。日本では2012年から人口が減り始めました。

人口が減ってくると社会システムって全部逆回転しちゃうんですよ。なぜなら今まで人口が増え続ける前提で作られていたから。人口が増え続ける、つまりインフレし続けるから問題を先送りにするシステムがうまくいってたんです。

でもデフレになった。デフレになる大きな要因はインフレの反対で人口減です。

 

人口とGDPは強い相関関係なんで。今、政府はGDPを上げる方向で頑張ろうとしてますよね。500兆を600兆にするとか。でもどう考えても無理ですよ。

人口はこれからどんどん減るし、ITが発達してもC2Cとか直接取引がふえれば仲介業者とかに落ちてたお金が減るわけで。そしたらGDPが下がるのは当たり前じゃないですか。

 

メルカリとかUberとかまさにそうですよね。でもあれで世の中が不便になってるかというと、逆に便利になってるわけで。

だからGDPを増やせば世の中良くなるという方式が成り立たなくなっていてそうするとこれからは、予測不可能でもデフレの中でも維持できる組織じゃないと生き残れない、っていうただそれだけの話なんですよね。

 

ー つまりホラクラシーはもう経済成長しない時代の適応の新しいカタチということでしょうか?

 

そうですね。

厳密に言えば経済成長というよりGDPが増大しないというべきですかね。今の経済って、価値を全部数値化することで成り立っているのではないかと思います。

学問としては数理経済学なんて呼ばれて、全部数字で説明しようとするけど、でも数字に表れない価値ってあるじゃないですか。

だから価値を再定義するところに来てるんだと思いますね。

 

いかがだったでしょうか?

ホラクラシー組織とは一言でいうとまさに「生き物」という感じです。

今まで会社で働いていて辛かったのはヒエラルキー組織という「機械」の部品になっていたのが一つの原因かもしれません。

武井社長は試行錯誤のプロセス自体をとても丹念に、丁寧に扱われています。そして、インタビュー中の話し振りは思想家のようでもあり印象的でした。

ダイヤモンドメディア(株)ではヒエラルキーからホラクラシーへの組織改変のコンサルティングもされているそうです。また、勉強会も定期的に催しているそうですので、ご興味ある方はぜひ問い合わせてみてはいかがでしょうか。

 

取材日:2018年5月21日

執筆・編集:梶原 勝

カメラ:芳尾 俊孝