事業売却の方法は?税金や従業員はどうなるの?

事業売却 方法 事例 従業員

事業売却とは事業譲渡とも言い、保有している事業の一部あるいは全部を売却することです。この記事では、なぜ事業売却を行うのか、会社売却と事業売却とでは何が変わってくるのか、また事業売却の一連の流れなどについて紹介していきます。

事業売却とは 

事業売却とは 会社売却との違い 

事業売却とは、会社の事業の一部または全てを第三者に売却(譲渡)することをいいます。

事業を行う上で必要な、ヒト、モノ、権利、債務、ノウハウや取引先との関係などが売却の対象となり、自由に定めることができます。

事業を売却した会社は、同一の事業を行うことを制限されることがほとんどですので、契約内容には注意が必要です。

手続きとしては、取締役の承認と株主総会による特別決議が必要になります。

事業を買収する側も、引き受けるものと引き受けないものを明確にできるため、簿外債務などを引き受けるリスクを減らすことができます。

事業売却の手続きについて、詳しくは以下の記事で解説しているので参考にしてください。

「事業譲渡に必要な手続きを丁寧に解説!契約書の書き方や会計処理まで」

事業売却の目的

ベンチャーキャピタル

事業承継問題を解決できる

後継者不足により経営者の高齢化が進んでいるという問題を、M&Aによる事業売却(譲渡)で解決するケースがあります。これらの問題はとくに中小企業で多いですね。

2017年の帝国データバンクによる「後継者問題に関する企業実態調査」によると、国内の中小企業の2/3に及ぶ66.5%が後継者の問題を抱えていると発表しています。

また、日本経済産業省の調査によると、2025年には6割以上の中小企業経営者が70歳を超えるそうです。

このような調査結果から、今後もM&Aによる事業売却(譲渡)のニーズは高まることが予想されます。

また、事業承継問題をそのまま放置しておくと、廃業という結果をまねいてしまう可能性もあり、そうなった場合、従業員の雇用が失われたり、優れた技術やノウハウも全て消えてしまうことになります。

さらには、取引先にも迷惑がかかってしまうことになるため、経営者としてもそのような事態は避けたいということから、事業売却(譲渡)が行われます。

M&Aによる事業承継の方法やメリットについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

事業承継のためのM&Aとは?メリットや方法、注意点をご紹介

経営戦略としての事業売却

経営戦略の一つとして事業売却を行うケースがあります。

例えば、事業売却による資金調達があげられます。ある事業に集中的に資金を投入したいとなった時、他の事業を売却して資金調達をしたり、借入金などを返済するために事業売却で資金調達をしたりすることがあります。

グループ企業などでは業績を見直す際に、拡大した事業領域の中から集中する事業を選び、その他の事業を切り離して売却するというケースもあります。

大手企業の傘下で事業をさらに成長させる

近年、会社を立ち上げて間もないベンチャー企業が、イグジット戦略として大手企業へ事業売却する事例が増えてきています。

イグジット戦略とは、事業が上手くいかなかった時の被害を最小限に抑えるために、事業から撤退するタイミングや数値的な目安をあらかじめ決めておくことで、廃業などのリスクを抑えることをいいます。

ベンチャー企業においては、大企業の傘下に入ることで巨大な資本をもとに事業展開を行えたり、新しい技術やノウハウを獲得し、事業をさらに拡大することができます。

イグジット戦略について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

イグジット(エグジット)とは?意味や戦略、IPOとM&Aの違いを解説

事業売却の方法

事業売却方法 株式譲渡 事業譲渡

このように、後継者不足の解消や経営戦略として事業売却が行われますが、それぞれの目的や会社の規模によって用いる手法が異なります。

M&Aは、大きく分けて買収、合併、分割に分類され、その中から目的に合わせた手法を取り入れることになります。

事業売却の場合、買収の中に分類される「株式譲渡」もしくは「事業譲渡」を利用するのが一般的です。それでは、それぞれの特徴について見ていきましょう。

そもそもM&Aとはどんなものか知りたいという方は、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

M&Aとは?その目的や手法、メリット・デメリットをわかりやすく解説

株式譲渡

株式譲渡は、売り手側の保有する株式を買い手に売却・譲渡することで、会社の経営権を引き渡すことをいいます。

売り手側のオーナーは売却益を受け取ることができ、会社を引き継ぐための手続きも、株式を引き渡すだけなので、比較的スムーズに行えるといったメリットがあります。

また、当事者間の契約のみで成立するので、ほとんどの場合、株主総会の特別決議を行う必要はありません。

しかし、買収する企業の簿価責務を引き継ぐことになってしまうので、デューデリジェンスをしっかり行うことが大切です。

株式譲渡について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

株式譲渡とは?メリット・税金・手続き・契約書について徹底解説!

事業譲渡

事業譲渡は、資産、ノウハウ、人材など事業に関わる全てを買い手に売却する方法で、事業売却をする場合、この方法を用いるケースがほとんどです。

事業譲渡では、事業のオーナーが代わるだけなので、会社自体は存続します。譲渡の対価は会社に入るため、オーナーが売却資金を得るためには工夫が必要です。

一般的に、社員の雇用や取引先との契約を個別に結び直す必要があり、社員の多い大企業では手続きが煩雑になるため、この手法が使われることはほとんどありません。

一方で、社員の少ない中小企業においては、メリットが十分にあるため検討の余地があります。

事業譲渡のメリットやデメリット、手続きの方法については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

事業譲渡に必要な手続きを解説!契約書の書き方や全体の流れ、会計処理まで

事業売却したら社員はどうなる?

事業売却 社員の待遇

事業売却において、社員の存在は重要なポイントになります。

中小企業が事業売却を行う場合、譲渡金額よりも社員の雇用維持を重視することがあるくらいです。

それでは、株式譲渡と事業譲渡に分けて、売却後の社員の雇用について見ていきましょう。

株式譲渡の場合

株式譲渡を利用する場合、株主が変わるだけなので、会社自体はそのまま何も変化しません。

基本的に、ビジネスモデルのみを買収しても実行する社員がいなければ無意味なので、社員の雇用も引き継がれます。

しかし、買い手によっては引き継ぎを行なった後に、社員を解雇することも可能性としてはあるので、社員の雇用に関する契約を事前に定めておいた方がいいでしょう。

事業譲渡の場合

M&Aでは売り手の意思を尊重する必要があるため、ほとんどの場合、社員は買い手に引き継がれます。

事業譲渡を行う場合も、買い手側に社員が引き継がれるのが一般的です。

また、売り手側の社員には雇用先を選ぶ権利があるため、元の会社で働きたいのであればそれも可能です。

しかし、売り手と同様に買い手にも社員を雇うか選ぶ権利があるため、滅多にありませんが、事業売却により職を失ってしまう可能性があります。

このような事態を避けるためにも契約の段階で、雇用契約に関する取り決めをしっかりしておきましょう。

社員の待遇に関する取り決め

事業売却は、会社だけでなく、社員にとっても大きな出来事です。通常、最終解約を結ぶ前後に社員に伝えますが、社員は少なからず不安に感じるでしょう。

そのため、事業売却を行うことが決まったら、社員の不安をできるだけ取り除いてあげることが必要です。

また、事業売却後の給料や福利厚生など、社員の待遇は前よりもよくなる傾向があります。社員にメリットがあることを上手く伝えるようにしましょう。

しかし、事業売却が決まったからといって社員の雇用が必ず保証されるとは限りません。

基本合意書の締結や最終契約を行う際に、しっかりと社員の待遇について取り決めておくことが大切です。

基本合意書を締結する目的やタイミングについては、以下の記事を参考にしてください。

LOI(基本合意書)とは?M&Aにおける締結の目的や内容を解説

事業売却と会社売却の違い 

事業売却 会社売却との違い

事業売却に似たM&A手法として、会社売却(株式譲渡)があります。

会社売却について詳しくは以下の記事で解説しているので参考にしてください。

会社を売却するとどうなる?方法・手続き・売却金額・税金について解説

会社売却の方が高値で売れる

会社売却の方が事業売却より高値で売ることができます。売却価格は、人が移動するかしないかが大きく影響します。会社売却では人が移動するのに対し、事業売却では人の移動がほとんどの場合でありません。

例えば、営業活動を主とする会社では、人の数に応じて売上が上がります。事業のみを売却する場合、買い手が同業者で運営ノウハウのある会社であればいいですが、そのようなケースは稀でしょう。

このように買い手側は事業だけでなく人も一緒に買いたいと思うため、事業売却は会社売却に比べて、売却価格が低くなる傾向にあります。

事業売却でも退職・入社手続きを行うことで、人を移動させることが可能です。しかし、手続きが煩雑になることや、そもそも経営者が人の移動を望んでいないことが多いため、実際に行われた事例はほとんどありません。

高値で売れる会社の条件や売却価格の計算方法など、以下の記事で解説しているので参考にしてください。

高い価格で会社を売る方法とは?売却の流れや売却相手の選び方まで

売却時にかかる税金は会社売却の方が安い

会社売却の方が事業売却に比べて、支払う税金は少なくなります。

事業売却(事業譲渡)だと事業に関する資産を売却した利益は、法人に支払われることになります。そのため、事業売却では、法人税として約35%負担しなければなりません。

一方で、会社売却を株式譲渡で行う場合、売却益にかかる税率は約20%になります。株式譲渡は、税率が低いうえ、株式を買い手に譲渡するだけで経営権も移るので手続きが簡単です。

また、会社売却では、株主が買い手企業に移動するのに対し、事業売却では事業のみが移動するといった違いもあります。

事業売却時にかかる税金について詳しくは以下の記事を参考にしてください。

事業売却・事業譲渡に関係する税金の種類と金額はいくら?消費税や法人税の課税対象のご注意を

事業売却の方がデューデリジェンスの期間は短い

デューデリジェンスとは、買収の対象となる企業の資産やリスクについて調査することをいいます。

正確な企業の価値を評価するため、簿外リスクや書面ではわからないことなどを調査したり、決算公告をなどを確認し本当に利益が出ているかなどをチェックします。こうして事前に調べておくことで、買収後の統合をスムーズに行えたり、シナジー効果を期待することができます。

事業売却におけるデューデリジェンスでは、売却する事業についてのみ調査を行うため、大体1~3ヶ月程度で終わることがほとんどです。

一方で、会社売却の場合、法務面や税務面、財務分析まで細かく調査が行われるため、6~12ヶ月程かかることがあります。

デューデリジェンスについて詳しくは以下の記事を参考にしてください。

デューデリジェンスとは?その種類や方法、M&Aで使用する際の注意点を解説

事業売却と会社売却のメリット・デメリット

事業売却と会社売却のどちらを選択するかは、個々の置かれた状況により異なります。

そのため、どちらを選択するかは、どんなメリットを享受したいのかによります。

会社売却と事業売却のメリット・デメリット

売却して資産を獲得して引退したいという場合であれば、会社売却という選択がいいでしょう。会社売却であれば経営権は買い手側に移り、売却益は創業者(株主)に入ります。

ただ、会社の引き継ぎ等で、一時的に拘束されるというデメリットもあります。

また、大手企業の傘下に入って経営規模を拡大させていくという目的での会社売却もあります。

大手企業がもつ経営リソース(信頼、販路など)の恩恵によって今まで成し得なかった成長の機会が得られます。

一方で、会社はそのまま保有したい場合や、事業領域の見直しによってある事業を切り離したい場合などは事業売却がいいでしょう。

事業売却は経営権の移動はなく、事業という商品を売買する商取引なので、商品として事業を売却することで、経営戦略として事業の選択と集中ができ、売却益という資金調達もすることができます。

会社売却について詳しくは以下の記事を参照してください。

会社を売却するとどうなる?方法・手続き・売却金額・税金について解説

事業売却の一連の流れ

事業売却の流れ

(※オークション方式)

事業売却の一般的な流れとしては、準備段階、交渉段階、最終契約段階の3つに大別できます。

また、事業売却は売る側にとっても買う側にとっても経営状況が大きく変わるので、株主保護のための手続きも関わってきます。

準備段階

事業売却を自社だけで行うのは難しく、ほとんどの場合がM&A仲介会社を利用してアドバイザーと共にM&Aを進めていくという流れになります。

  • 論点整理
  • 資料・IM等作成に必要な資料の収集
  • 事業計画の精査
  • 候補企業の選定とプレ・マーケティングの開始

交渉段階

次は実際に交渉していく段階です。ここでいくつかの買い手企業と接触し、候補を選定していくという流れになります。

  • 候補企業とのCA締結(秘密保持契約)
  • 候補企業へのIM配布
  • 意向表明書の受領・通過者の選定
  • トップ面談
  • 基本合意書の締結
  • DD(デューデリジェンス )
  • DD開示資料に対する候補企業との質疑応答
  • 最終意向表明書の受領・最終候補者の選定

最終契約段階

最終的な契約を結ぶ段階です。DDによる企業価値評価が実施され、そのまま契約の意が示されると、価格やその他条件等の最終的な交渉が行われ、最終契約が結ばれます。譲渡代金の支払い手続きをし、経営権が移転して完了(クロージング)となります。

  • SPA(株式譲渡契約書)の条件交渉
  • SPA(株式譲渡契約書)の締結
  • クロージングの準備
  • クロージング

まとめ

事業売却とは

M&Aと言っても様々な手法があり、事業売却もその手法の一つにすぎません。適切な手法というのは会社によってそれぞれ変わってきます。なので事業売却を行うまえに、今一度この判断が適切かどうかを考えてみる必要があります。

また、その際に仲介会社などに相談していくのもおすすめです。事業売却のプロセスは会社売却に比べると複雑であり、手続き等も煩雑になるので仲介会社や専門家の補助は必要不可欠でしょう。

以下の記事で、仲介会社を選ぶポイントなど解説していますので参考にしてください。

知らないと損をする!会社売却を相談する相手・専門家を徹底解説!