ベンチャー企業のトラブル、記者会見。そのときすべきことは。【前編】

企業のコミュニケーション戦略を考えてベンチャー企業を運営しよう

コインチェックの会見から19日が経った。

昨日には金融庁への業務改善報告後会見が行われ、それに対してのたくさんの記者の辛辣な質問が飛んでいた。

NEMが大量に不正アクセスを受け流出したことは記憶に新しい。また、同じ頃にはハレノヒも記者会見を行なった。

ベンチャー企業は、それが自己が招いたトラブルであるか、降りかかってきた災難かに問わず、記者会見を開かざるを得ないことがある

今回pediaでは、記者会見などのスピーチライターを手掛ける、株式会社コムニスの蔭山洋介氏にpedia編集長正田がベンチャー企業の記者会見について話を伺った。

目次
【前編】

ポイント1.冒頭のスタンスが会見の「流れ」を決定する

ポイント2.記者会見は24時間以内に開く

ポイント3.「お騒がせして申し訳ありません」はありえない

ポイント4.お辞儀をして頭を上げるときはゆっくりあげる

ポイント5.目線は一箇所に

ポイント6.社長が自らの言葉で喋る

【後編】

ポイント7.スライドやパネルを準備するのも効果的

ポイント8.「検討中です」は乱発注意

ポイント9 企業で大切なのは倫理>法律、社会的信用>法的信用

蔭山洋介氏@communisjp

スピーチライター、ブランドディレクター、演出家。
パブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略を裏から支えるブレインとして活躍。

クライアントには一部上場企業、外資系企業、中小ベンチャー企業の経営者や管理職、政治家、NPO 代表、公益法人理事長、講師などのリーダー層が多い。書籍に『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』(角川新書)、他。

正田圭氏@keimasada222

15歳で起業。
インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。

事業再生の計画策定や企業価値評価業務
に従事。
2011年にTIGALA株式会社を設⽴し代表取締役に就任
テクノロジーを用いてストラクチャード
ファイナンスや企業グループ内再編等の投資銀⾏サービスを提供することを目的とする。
2017年12月より、スタートアップメディア「pedia」を運営
著書に『サクッと起業してサクッと売却する』『ファイナンスこそが最強の意思決定術である。』『ビジネスの世界で戦
うのならファイナンスから始めなさい。
』『15歳で起業したぼくが社⻑になって学んだこと』(いずれもCCCメディ
アハウス刊)、『この時代に投資家になるということ』(2018年5月発売予定・星海社新書)がある。
正田圭 のnoteはこちら

ポイント1.冒頭のスタンスが会見の「流れ」を決定する

正田圭 7日前に、コインチェックでのNEM不正流出事件が起こりました。
これに関しては、コインチェック側の管理体制が甘かったと言われてはいますが、自己が招いたこと、そうでないことに関わらず、ベンチャー企業にとっては記者会見というものは初めての体験であることがほとんどだと思います。
自分も15年以上会社経営を行ってきて、裁判、労働審判、税務調査など色々ありましたが、有事の状態での記者会見はまだ開いたことがありません。

でも、初めての体験だからとはいえ、ミスが許されるものではありません
その一回で決定的にマスコミから印象付けられることもあります

今回のコインチェックの事件も、賛否両論を生み、pedia では記事にする立場なわけですが、敢えてpedia ではコインチェックの是非について論ぜずに、記者会見の進め方という観点から記事にさせていただこうと思い、実はこの蔭山さんとの対談自体も、事件の次の日には行っていたのですが、少し時間を空けて出させていただいています。

コインチェック側の受け答えや記者の質問などに正直苛立つこともありましたが、企業が記者会見で一般評価を受ける以上、世論に正しい評価をされたいし、そのような有事な記者会見をする際には正しい選択をしたいのではないだろうかと思います。

少なくとも、もしTIGALAで有事の記者会見を行うならば僕はそう思います。
それでは蔭山さん、よろしくお願い致します。

蔭山洋介 よろしくお願い致します。
今回Coincheckの会見は23:30スタートでしたね。
トラブルから約10時間経っての記者会見です。

実際記者会見を行う側のベンチャー企業としては、苛烈な精神状況のなか、対応をしなくてはならない背景もあるため、精神的な負荷は半端なものではありません。外には報道陣や多くの顧客たちもいて、そのプレッシャーも凄まじいものがあります。

ポイント2.記者会見は24時間以内に開く

正田圭 早速お尋ねしますが、こういうのの会見って大体どのぐらいのタイミングでやればよいものなのでしょうか?

蔭山洋介 原則は、24時間以内に開くものとなっています。今回10時間で会見を開きましたが、タイミングとしては良かったと思います。

でも、内容としては、10時間かけて準備してきたとは思えなかったものでした。
もし、準備に時間が取れなかったのであれば、きちんと準備して、翌朝の5時や6時に会見を開いても良かったかもしれません。

成人式当日に店舗を閉鎖してしまったハレノヒでの記者会見は、逃げ回ってしまい24時間を大幅に過ぎて記者会見を行っていました。記者会見を開くことが24時間を超えてしまうのは、逃げ回っている印象を与えてしまうためNGです。

今回のコインチェックは、そこに比べたら圧倒的に良かったのですが、内容に関する準備が疎かになっていたため、結果として悪印象を残す会見になってしまったかと思います。

まずは、どのような基軸でコミュニケーションをするかをしっかりと決めてから出てくるべきです。

今回、それが固まらずに記者会見を開いてしまったのが一番残念でした。

記者の質問に何も答えられないというのは、非常にまずいです。

具体的な数字も言えず、「現金が引き出せないのですがどうなってますか」という質問に対しても「検討中です」で、これだと会見開く時点で記者が叩く構図になるのが確定しちゃってるんですよ。会見をする時点で、現況と、どのように対応するかの方針を提示するのが大切なので、それがなかったら記者は怒ります。

記者も、読者に何かを伝えたくて情報を取りに来ているため、何もないと、無駄足を踏んでしまった気がしてしまうのです。

ちなみにですが、これが象徴的に表れているのが冒頭のシーンです。

「和田晃一良氏:本日弊社サービス・コインチェックにおいて、機能が停止する事態が発生しました。本件に関しまして、みなさまをお騒がせしておりますことを、深くお詫び申し上げます。たいへん申し訳ございませんでした。」

蔭山洋介:よかった点は、ちゃんと謝る服装になっていることです。濃いめのスーツ。濃い無地のネクタイ。白いシャツがこのような記者会見の基本です。

少し前に騒ぎになったYoutuberのヒカルさんも、髪を黒くして服装もスーツで現れました。

ただ、この謝り方が好ましくないです。ここで記者の感情を逆なでしてしまいました。「お騒がせしました」、という言葉選びが良くないのです。

ポイント3.「お騒がせして申し訳ありません」はありえない

大切な資産を預かる取引所がお金を守る仕事をしなくてはいけないのに、お騒がせという言葉は、レベル感が違い、横の法律家の先生の指示かもしれませんが、本来は、資産を危険に晒したこと、流出させたことへの謝罪があって然るべきです。

このような「お騒がせして申し訳ありません」は不倫会見の時の記者会見のような謝り方になってしまっています。

正田圭:今回、記者たちが詰めていくような流れになっているんですけど、ここで記者の感情を逆なでしなければ会見の流れが変わったりすることってあるんですか?

蔭山洋介:それは全然違う流れになりますね。

あきらかにここでハフィントンポストさんとかが苛立っているので、ぜひ見てみてください。
正田圭:こういうことは、ベンチャー起業家とかが意識すらしてないことだったりするので、とても重要ですね。

コインチェック側は特に意識して発言したわけではないのでしょうが、
何百回と取材を重ねている記者たちは、こういうところに過敏に反応する
のでしょうね。

ポイント4.お辞儀をして頭を上げるときはゆっくりあげる

蔭山洋介:そうですね。お辞儀の角度に関してはとても良かったと思います。

正田圭 お辞儀にも作法があるのですね!?

蔭山洋介 そうなんです。
最初のお辞儀も、印象が決まるので大事なんです。
頭の下げ方はもちろんなんですが、謝罪は頭を上げる瞬間が難しく、なかなかゆっくり上げられないんですよ。1、2、3ですっと上げると謝罪感がない雰囲気を出してしまうんですよ。
今回のお辞儀は、頭をゆっくり上げているので、問題ありません。

ポイント5.目線は一箇所に

この環境下で淡々と言葉を紡がれた大塚さんは、相当胸が苦しいはずです。
実際かなりの重圧があるのでしょうが、この姿は悪くない。
胸を打ちます
しかし、和田さんの目線が良くないです。和田さんの目線が各記者を目移りしてしまっているため、挙動不審感が出てしまっています

実際に挙動不審なわけではなく、どの記者を見ていればよいのかわからずキョロキョロしてしまったのでしょうが、自信がなく、いかにも何か悪いことをしてしまった感じがしてしまいます。

正田圭 これって企業がイベントやセミナーを行う時に登壇慣れや司会慣れしていない人がよくやってしまう、あるあるですね。

本人は、色んな人に満遍なく喋りかけているつもりでも、結果としてキョロキョロしているように見えてしまう。

こういう場合は、どこを向いて話をするのがよいのでしょうか?あまり堂々とし過ぎていても変ですもんね?

蔭山洋介 反省してることを見せたいのであれば、一番手前の記者に視線を固定すべきでしょうね。

ちなみに、反省を表すような記者会見で、上手く反省を表現できていたのは、10年以上前の話になりますが、杉村大蔵さんの謝罪会見になります。


杉村太蔵さんの反省はすごく良かったんですよ。それで一気に流れ変わりましたから。
しっかり前を見てちゃんとパフォーマンスができるかも大きなポイントにはなってきます。

パフォーマンスと言うと表現が悪いかもしれませんが、企業イメージが回復するか悪くなるかの瀬戸際だと思いますので、出来ることはなんでもすべきです。

このような出だしだったこともあり、記者から「すいませんもう少しい大きな声で話してもらえますか」などという圧力もあって、叩く気満々の記者会見という方向性がここで決定されてしまいました

ポイント6.社長が自らの言葉で喋る

正田圭:なんか、個人的にはコインチェックの記者会見は、もっと社長が喋れば良いのにと思ってしまいました。こういうのは、誰が何を喋るべきなどの取り決めがあるものなのですか?

蔭山洋介:そうなんですよ。実は、このあとほとんどの会見の中身を取締役の大塚さんが喋られていましたが、これはかなり悪印象です。

なぜかと言いますと、力関係がぐちゃぐちゃに見えてしまい、力のないにーちゃん社長と、しっかりした実務部隊に見えてしまい、社長があまりわからずに事業運営をしていたのではないかと、本当はそうでないにしても、勘違いされてしまいます

正田圭:社長が基本しゃべらないとダメってことですかね。あと、こういう記者会見の時、紙に書いておいて読み上げる人が多い気がします。

コインチェックの場合は紙を読み上げてはいませんでしたが、ここらへんはいかがでしょう?

蔭山洋介:紙を読み上げるというスタイルに関してですが、このような謝罪では一言一句間違えることが許されないので、普通読み上げます

ただ、読み上げないから良くないという話でもないので、どちらでも構いません。紙を読み上げても問題ないのだと覚えておいていただければ。

あと、社長の話す配分についてですが、社長が全てを話す必要まではありません
しかし、今回のコインチェックの記者会見ですと、冒頭10分くらい社長が喋らない状態が続きますので、これは好ましくないです。

正田圭:ここらへんも記者の感情を逆なでしてしまったのですね。

蔭山:はい。あと、この後でCFOの話を和田さんがされるんですが、そこで記者は思うわけです、CFOどこだよ、と。

ここでCFOがいない、ってのも、よっぽど頼りないのか、と勘ぐってしまう。
なので、このくらいの規模のニュース性がある記者会見ならば、幹部全員が出てくるべきです。そして、基本的な大枠はCEOが話すべきです。

基本的に会見に臨む時は各部門のチーフは来るべきで、来ないとその体制が整っていないのでは、とみられてしまいます。

今回も580億という数字からも、各部門長はいるべきではないでしょうか。

あと弁護士ですね。コインチェックさんも、弁護士は同席されてましたが。

正田圭:もしかすると、コインチェックさんは設立浅い会社なので、役員の数が少ないとか、そういう背景もあり和田さんと大塚さんだけなのかもしれませんが、喋る配分に関しては逆にすべきだったと…。

蔭山洋介:そうですね。たとえば、元ライブドアの堀江さんだったら記者会見の時めっちゃ喋るじゃないですか。それが経営者としては普通だと思います。

正田圭 自分は経営者なので記者会見とか、人前で喋るときって、その人の胆力というか、覇気みたいなものが試されるじゃないですか。特に、敵意を持った人々の前でどれだけ堂々と振る舞えるかは、経営者の資質であるとも感じるわけですよ。

少なくとも自分はコインチェックの社長からは覇王色の覇気は感じなかったので、残念です。

後編はこちら