資生堂の架け橋「資生堂ベンチャーパートナーズ」がベンチャーと美しい生活文化を創造する…資生堂ビジネスデベロップメント部部長柏尾氏が語る、資生堂のオープンイノベーション

今回、Pedia Newsでは、資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太(かしおごんた)氏にインタビューを実施し、資生堂がベンチャー投資組織を設立した経緯、オープンイノベーションに対する取り組みを伺った。

グローバル化の進展や市場の成熟などに伴い、市場ニーズの多様化、製品のライフサイクルの短命化、IT化によるサービスのコモディティ化など、日本企業は、激しい環境変化への対応が求められている。その中、国内企業の多くが、自社だけの経営資源のみに頼らず、外部などから技術やアイデアを取り込むことで新しい価値を生み出しイノベーションを創出する「オープンイノベーション」に注目する。

そもそも、オープンイノベーションとは、カリフォルニア大学バークレー校 ヘンリー・チェスブロウ氏によって提唱された概念であり、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである。

オープンイノベーションの重要性は年々増す一方で、平成27年度経済産業省産業技術調査(企業の研究開発投資性向に関する調査)によれば、半数以上の企業が10年前と比較してオープンイノベーションが活発化されていないのが現状である。また、技術開発について、自社単独のみで開発する場合が61%、事業化されずに死蔵される場合が63%であり、内部的にも外部的にもオープンイノベーションは決して進んでいるとは言えない。

シリコンバレー、イスラエル、ドイツ、オーストラリア、インド、シンガポールのように、世界で先行する特徴的なイノベーションエコシステムの形成事例を見てみると、オープンイノベーションの推進には、トップダウン及びボトムアップ双方の取り組み、社内文化の醸成や人材育成の組織づくりに加えて、専門部署の設置、CVC、産学連携、政府や官公庁による法整備など多様な仕組みを組み合わせることが必要となるだろう。

これまで、Pedia Newsは、スタートアップ、ベンチャー企業やベンチャーキャピタル(VC)に数多くのインタビューを実施してきたが、ベンチャーエコシステムを構築するためには、企業、大学、官公庁、研究機関なども非常に重要な存在である。そこで、Pedia Newsでは、オープンイノベーションを推進する組織に焦点をあて、連載インタビューを実施していく。

その第1回目として、「資生堂ベンチャーパートナーズ」をご紹介しよう。今回、Pedia Newsでは、資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太(かしおごんた)氏にインタビューを実施し、資生堂がベンチャー投資組織を設立した経緯、オープンイノベーションに対する取り組みを伺った。

* 参考記事:**資生堂、「資生堂ベンチャーパートナーズ(SVP)」を設置 第1号案件は「ドリコス」へ出資**

資生堂は、日本を代表する化粧品メーカーで、国内ではトップ、世界でも上位の売上を誇る。1872年、日本発の洋風調剤薬局として東京・銀座に創業した。「資生」は、もともと、中国の古典である『易経』の中の一節「至哉坤元萬物資生」(大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか、すべてのものはここから生まれる)に由来する。新たな価値の発見と創造をめざすという創業の想いを140年以上の歴史の中で受け継ぎ、独自の伝統を築いてきた。これらは、将来にわたって資生堂が発展し続ける上で大切な基盤・強みとなっている。

「美しい生活文化の創造」それが資生堂の企業使命である。100年先も輝き続ける資生堂の原型を作ることを目指し、中長期戦略「VISION 2020」を2015年度に開始した。美しさを通じて人々が幸せになるサスティナブルな社会の実現を目指している。

資生堂の強みである、研究開発・技術力、安心安全・高品質な商品、おもてなしの心、グローバルな事業展開、人材・ロイヤリティ、歴史ある会社・文化への貢献を活かすと共に、自社だけにとらわれず、自社以外の技術やアイデアを組み合わせることで、「美」に関する革新的な商品・サービスを創造する。それこそ、資生堂が推進する「オープンイノベーション」である。

その一環で、資生堂は、ベンチャー企業への投資を行うCVC「資生堂ベンチャーパートナーズ」を設置した。この資生堂ベンチャーパートナーズをリードするのが柏尾氏だ。

資生堂といえば、2010年に米国の化粧品会社「ベアエッセンシャル」を約1700億円で買収したのが記憶に新しい。それ以降、しばらく買収に関する発表はなかったが、2016年6月には米国の化粧品会社「Gurwitch Products」を買収し「ローラ メルシェ」および「リヴィーヴ」のブランドを取得したほか、7月にはイタリアのラグジュアリーブランド「DOLCE&GABBANA」とライセンス契約を締結している。

**資生堂としては、中長期戦略のもと、グローバルを見渡し、ブランドポートフォリオの足りない部分をM&Aで補完していくことを考えていますが、例えば6年前の2010年と比べ、ターゲットブランドが非常に少ないと感じています。独自経営や家族経営などの独立ブランドのほとんどは、この5〜10年の間で大企業の傘下に入ってしまいました。結果として、近年のM&A事例を見ると買収側が非常に高いプレミアムを支払っているケースが増えており、当社が従来と同じやり方でM&Aを手がけていくと、今後どこかで行き詰まる恐れがあるのではないかと思いました。そこで、中長期戦略のひとつとして、これから成長していくベンチャー企業に注目していきたいと考えました。そのため、ベンチャー企業に対してスピード感を持って投資の意思決定を行えるように、「資生堂ベンチャーパートナーズ」を設立しました。**(資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太氏)

また、資生堂は、中長期戦略の中で、R&D投資を2017年までに2014年対比40%増と大幅に強化することを明らかにしている。これにより、基礎・基盤研究開発投資を強化し、オープンイノベーションを促進していく。2018年末には、横浜・みなとみらい21地区で、化粧品の研究所として世界最大規模の新研究所「グローバルイノベーションセンター(GIC)」を稼働させる予定。この動向を見る限り、資生堂ならではの強みと潜在能力を活かした自前主義のモノづくりを進めていくものと考えられるが、これまでのノウハウや知見を活かし、「ベンチャーが開発したシーズに対してエビデンスの提供支援を行う」(柏尾氏)という。

**今回の投資では、資生堂ベンチャーパートナーズがファシリテーター、コーディネーターの役割を担うことで、社内の各部門がうまく連携することができました。今後も資生堂ベンチャーパートナーズを中心に、R&D部門や事業部門と連携しながら、ベンチャー企業の新たなアイデアや技術を大きく成長させていってもらうためにサポートしていきたいと思います。**(資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太氏)

資生堂ベンチャーパートナーズでは、資生堂内部からは生み出せないような将来の経営資源を持つ、先進的な事業を展開するベンチャー企業へ投資する。将来有望なベンチャー企業への投資を積極的に進めることで、中長期戦略「VISION 2020」の実現を目指す。

**投資対象に関するクライテリアはありますが、資生堂との事業シナジーを描けるかどうかを最も重要視しています。あくまでも戦略投資であり、本業に何らかの形で貢献する投資をしていきたいと考えています。資生堂には、長年培ってきたブランドも技術もノウハウや知見もあります。それらをスタートアップに提供することを惜しまず、彼らと協業して新しい価値を提供していきたいです。**

**もちろん、資生堂は大きな組織なので、本来ならば幾つかのプロセスを踏まないと投資という意思決定ができませんが、資生堂ベンチャーパートナーズは特にベンチャー企業へ投資支援を行うので、何よりもスピードが重要です。そこで資生堂ベンチャーパートナーズは、資生堂本体の既存の決裁プロセスではなく、決裁者である社長直下のダイレクトな意思決定プロセスを採用することで、柔軟性を持って迅速に検討できる体制を作りました。**(資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太氏)

気になる投資先第1号が「ドリコス」である。ドリコスは、「エレクトロニクス」と「飲む」を組み合わせ、世界初のオーダーメイドドリンクサーバ『healthServer(ヘルスサーバー)』を手がける会社。ドリコスへの投資経緯について、柏尾氏は次のように説明してくれた。

**高齢化社会が進む日本において「健康」と「美容」は非常に大切なキーワードだと思います。その中で、資生堂の強みを活かし、社内の各部門と連携して、かつ自分たちも面白味を持って新しい価値を提供したいと考えていました。**

**ドリコスは、独自の商品である『healthServer』を持っており、個々人に対して、パーソナライズ化したソリューションを提供できる点が非常にユニークだと思いました。竹社長とお話して、彼らは熱意を持って本気で新しい価値を提供していきたいというのが伝わってきました。資生堂ベンチャーパートナーズとしても、お金以上のもの、パッションや熱意などでスタートアップと繋がり、創業者をサポートしていければ素晴らしいことだと考えています。また、経営チームも非常に誠実で安心感があり、その誠実さがサービスにも伝わっていると感じました。**

**ドリコスの場合は、彼らの技術やサービスと関連する幾つかの部門と議論を交わし、協業のストーリーを描くことができました。協業によって、資生堂とドリコスとが長期にわたりお付き合いしながら、共に成長していけると信じています。実際、資生堂ベンチャーパートナーズで投資させていただいたことをきっかけに、資生堂内では複数の部門でドリコスとの共同プロジェクトを進めています。今後、資生堂ベンチャーパートナーズという仕組みを使いながら、資生堂がもつ知見やノウハウを提供することで、ドリコスと共に、どのように生活者に価値を提供していくか、どのように健康へ寄与していくのか、を考えていきます。これは非常にやりがいがあると思っています。**(資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太氏)

資生堂におけるオープンイノベーションの架け橋である「資生堂ベンチャーパートナーズ」が、資生堂とベンチャーを繋ぎ合わせることで美しい生活文化を創造する。最後に、柏尾氏は、今後の展望について、熱く語ってくれた。

**資生堂ベンチャーパートナーズは、2016年12月に設立し、小さくスタートをしたばかりです。中長期計画「VISION 2020」の実現に向けて、ベンチャーへの投資支援を通じて貢献していくつもりです。ブランド事業のみならず、バックオフィスの生産性や効率性の向上などの面も含めて、当社のバリューチェーンに多種多様な変革を起こすことができ、ポジティブな影響を与えることができる可能性があると考えています。**

**この枠組みを使って、協業だけでなく、人材交流も進めていきたいと思います。例えば、ベンチャーに資生堂の人材を役員として派遣するだけでなく、若手人材をインターンのような形で交流させることなども考えています。将来有望なベンチャー企業と、会社で育成してきた社内の有望な人材を交流させていきたいですね。**

**資生堂ベンチャーパートナーズは単に投資活動を行う器ではなくて、資生堂におけるオープンイノベーション推進の試みであり、一言で言えば、資生堂内での架け橋のような立ち位置を目指しています。**

**資生堂は、化粧品事業のみならず様々な事業が存在しています。資生堂という組織、集合体としてのオープンイノベーション活動の全体最適化はまだ十分になされていないのが現状であり、当社はオープンイノベーションにおける部門間の連携に対して問題意識を持っていました。**

**私たちはカタリストでなければなりません。ベンチャー企業と資生堂との間に化学反応を起こさせて、新しい価値を生み出すことができればいいですね。そうすることで、様々な副次効果も生まれると思います。オープンイノベーションの推進により資生堂という組織を、ベンチャーの起業家精神、スピード感、経営感覚、独自の発想等に感化させることができれば、また好ましいことです。**

**そのためにも、まずは国内で成功事例を積み上げていきたいと思います。その上で、資生堂のもつリソース、知見やノウハウとグローバルなネットワークを活かし、投資対象を海外のベンチャー企業にも広げていきたいと思います。**

**
THINK BIG, START SMALL, MOVE FAST!!**(資生堂 ビジネスデベロップメント部 部長 柏尾権太氏)

資生堂ベンチャーパートナーズ