東大を軸に、東大を越えた投資支援…東京大学エッジキャピタル代表の郷治氏による、UTEC流・投資の極意

いま大学発研究開発型ベンチャー企業が注目されている。その中、第一人者として活躍するベンチャーキャピタルが株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)だ。今回Pedia Newsでは、株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)の代表取締役兼マネージングパートナーである郷治友孝氏に「UTECの投資方針」と「投資先企業の投資経緯」についてインタビューを実施した。

DESCRIPTION

いま大学発研究開発型ベンチャー企業が注目されている。

経済産業省は、4月8日、現存する大学発ベンチャーが1,773社と2014年度調査時(1,749社)より微増し、黒字化した大学発ベンチャーの割合も55.6%と2014年度調査時(43.1%)より増加していることを明らかにした。

その中、第一人者として活躍するベンチャーキャピタルが株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)だ。

UTECは、2004年、研究成果を事業化するベンチャーをシード(種)・アーリー(早期)の段階から支援するために設立された。UTECでは、ベンチャーキャピタリストが献身して起業家を支援することで、起業家、研究者、投資家の間で、研究成果の事業化と利益の還元を行う「最も先進的なベンチャーキャピタルファームとなる」ことをミッションに掲げる。

今回Pedia Newsでは、株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)の代表取締役兼マネージングパートナーである郷治友孝氏に「UTECの投資方針」と「投資先企業の投資経緯」についてインタビューを実施した。

### UTEC流・投資の極意

UTECでは、創業前後のシード・アーリーをメインとしたベンチャー企業に投資を行い、リード投資家として投資先の経営・ファイナンス面を支え、共同で事業を創ることに主眼を置いている。

UTECのこだわりは、研究・技術・イノベーションへのシード投資。もちろん、創業者がかなり作り込んでいる段階にビット(投資)する場合やタイムリーな投資もあるが、投資する前段階から『じっくり時間をかけながら投資する』ことが多い。UTECの投資実績は科学技術(サイエンス)の分野が多いが、大きな市場分野で『一番おもしろい』『当たれば大きなホームランになりうる』ベンチャー企業に早い段階から投資支援する。

### 第1号ファンドの投資実績

そう語る郷治氏は、UTECでは第2号ファンド以降、会社設立前を含むシード・アーリー段階のベンチャー企業への投資が100%を占めるようになったと言う。

第1号ファンドでは、比較的当時のベンチャーキャピタルにありがちだった、バランス型のポートフォリオを形成していた。つまり、ミドルステージやレイターステージの投資も多かった。結果として、リーマンショックを挟んで、レイターの案件はほとんど損失となった一方で、シードから取り組んだ案件が成果を出して第1号ファンドのリターンの大部分を生んだ。ただ、当時は、シード/アーリーに投資してこそうまくいくという考え方に対しては、レイターのベンチャー企業の方がサービスも経営陣も出来上がっているので『それはおかしいのではないか』と言われることも多かった。しかし実際には、シード/アーリーのベンチャー企業に投資支援をして初期段階から共同で会社を作り込んだ案件の方が成功確率が高かった。(郷治氏)

### ファンド規模は総額約300億円

UTECでは、これまでに総額約300億円規模の3つのファンドを組成。内訳は、第1号ファンドが約80億円、第2号ファンドが約70億円、第3号ファンドが約150億円。設立から12年で、投資企業数は約70社に及ぶ。そのうち、9社がIPO(株式上場)、8社がM&A(合併・吸収)を果たした。なお、UTECの投資実績には、Googleにイグジットした株式会社フィジオス、バイドゥにイグジットしたpopIn株式会社などグローバル企業へのイグジットケースも多い。

### 最初の成功イグジット企業

DESCRIPTION

UTECの最初の成功イグジット企業は、シード期から支援した、がんワクチン研究開発を通じてがん治療の未来を創造するテラ株式会社。テラは、2009年3月にJASDAQ NEOへ上場を果たした。

2009年3月は、リーマンショックの影響で日経平均株価がバブル経済崩壊後最安値の約7,000円を記録した不遇な時期でもあるが、その中でUTECは最初のホームランを生んだ。苦境にもかかわらず、テラは上場後3カ月で時価総額が約200億円まで上昇し、UTECのリターンは第1号ファンドほどの規模となった。その成果が、UTECの継続的なファンド組成、さらには郷治氏の考える「シード/アーリーのベンチャー企業への投資」を後押しすることになった。

### UTECならではの取り組み

また、UTECは、東京大学の技術移転関連事業者として始まったベンチャーキャピタルという顔も持つ。

UTECのおもしろい点は、東大からお金は出してもらっていないが、東大と密に連携しており、東大の知的財産部に届く発明届のうちベンチャーの起業に関心があるものはUTECに開示される仕組みとなっていること。東大の知的財産部に届く発明届出数は年間500〜600件に及ぶ。そのうち約60%が大企業との共同研究で、残りの約40%が大学単独の研究。大学単独の研究が東大発ベンチャー企業につながるケースが多い。(郷治氏)

### 東大発ベンチャー企業ペプチドリームとの出会い

DESCRIPTION

UTECが、東大知的財産部からの開示があったからこそ投資支援できた東大発ベンチャー企業の典型例が、ペプチドリーム株式会社だ。ペプチドリームは、当時東京大学の先端科学技術研究センターに所属していた菅裕明教授(現在は大学院理学系研究科に所属)が開発した「スーパーフレキシザイム技術」をコア技術としてペプチドの翻訳合成・修飾・スクリーニングに関する総合技術(「RAPIDシステム」)を保有。RAPIDシステムを活用することで、非天然型アミノ酸やN-メチル基、アミノD体など特殊な構造を組み込んだペプチド様化合物(特殊ペプチド)を自由自在に創製できる。特殊ペプチドは従来のペプチド医薬品では解決が困難であった生体内安定化や細胞膜透過性を解決し、抗体医薬に続く次世代の医薬品候補物質になると期待される。ペプチドリームは、2013年6月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場、その後2015年12月に東京証券取引所第一部へ市場変更を果たした。

ペプチドリームの原石となる発明届は、2005年に菅教授によって東大の知的財産部に届け出られた。菅教授がベンチャー企業に関心があったこともあり、UTECへ開示があった。UTECでは菅教授をサポートするべく、パートナーとなる経営者を探した。複数人を紹介した中で、菅教授は、4人目に紹介された窪田規一氏(現・ペプチドリーム株式会社代表取締役社長)と意気投合し、2006年夏に起業した。その後、2008年、米国で特許が認められた。それを受けて、UTECは、東大に発明届が出てから3年後となるが、投資実行した。このようにUTECでは、シード期の技術開発型ベンチャー企業への投資の際には、経営陣の採用支援など、中に入り込んだ投資支援を行なっている。(郷治氏)

DESCRIPTION

### Pedia厳選!UTECの投資実績を紹介

さらに、UTECでは、東大を軸に置きながらも、国内外の大学、研究機関、企業など様々な機関を網羅し、研究開発型ベンチャー企業の投資支援を行う。

以下では、郷治氏よりUTECの投資実績としてご紹介いただいたベンチャー企業の中から4社について、投資経緯などを含めてお伝えしよう。

### 企業からスピンアウト、クリュートメディカルシステムズ

DESCRIPTION

まず、UTECが企業からのスピンアウトを支援して東大と結びつけた投資企業のひとつである、株式会社クリュートメディカルシステムズを紹介する。

DESCRIPTION

クリュートメディカルシステムズは、大手光学機器メーカーHOYA株式会社からスピンアウトして、2013年4月に設立されたベンチャー企業。技術顧問には東大病院眼科相原教授が就任。クリュートメディカルシステムズでは、光学技術をコア技術としたモノ(医療機器)づくりを進め、人(医療受療者/従事者)に優しい医療機器を提供しクオリティオブビジョン(QOV)の向上に貢献している。

### 国境を越えた、Noxilizer

DESCRIPTION

次に、UTECが企業からのスピンアウトを支援して米国と日本をつないだグローバルな投資企業である、Noxilizer, Inc.を紹介する。

Noxilizerは、ノーリツ鋼機株式会社から、プラズマで空気から二酸化窒素(NO2)を生成する事業部を分社設立した旧サイアン株式会社を、2013年に米国Noxilizerと統合して、世界唯一のNO2滅菌企業として生まれ変った会社。Noxilizerでは、製薬業界・医療機器製造業界、及び、医療機関向けに、NO2による滅菌技術を活用した製品の開発及び事業化に取り組む。製薬業界・医療機器製造業界においては、次世代医療機器や医薬品/機具混合製品のための滅菌サービスを提供。自社製品の滅菌を行う企業に対しては、RTS360二酸化窒素滅菌システムを販売。また、医療機関向けには、好感度、低侵襲外科施術において用いられる高感度で先端的な医療機器向けのシステムを開発。

サイアンは、当時ノーリツ鋼機株式会社の技術者だった岩崎龍一さんらが、プラズマで空気からNO2を生成する滅菌方法でベンチャー企業を作りたいとUTECに相談にきたことがはじまり。サイアンには、東大病院の滅菌学教室の先生などのアドバイスも受けながら、新しい滅菌機を国内企業に販売するとともに米国の食品医薬品局(FDA)から医療機器としての承認を受けることを目指すべく、2010年にUTECから投資実行した。しかし、その翌年の2011年に東日本大震災が起きた結果、顧客候補企業からの受注が難しくなってしまい、ジリ貧状態に落ち入った。そこで、ふと世界をみてきた。すると、同じNO2を使った滅菌方法を事業化しようというベンチャー企業が米国メリーランド州のボルチモア市にあった。それこそが、Noxilizerだった。Noxilizerは、サイアンのようなエンジニア集団ではなく、微生物学の研究者集団がおり、マーケティングを得意としていて欧米の大手製薬会社や医療機器会社にリーチしていた。そのうえ、ボルチモア市はワシントンDCの隣で、地理的にも米国政府のFDAと近かった。サイアンとNoxilizerは、互いに全く異なるバックグラウンドと強みを持ちながらも、NO2による滅菌方法で医療の世界を変えようとしている点は共通で、『サイアンとNoxilizerはシナジーがある』『それならばサイアンとNoxilizerを一緒にしよう』と考えた。そこで、2012年から、サイアンのメンバーと共にNoxilizerへ熱烈なオファーを投げかけた。『日本と米国で国は違うが、国境を越えてNO2でつながっている』『サイアンとNoxilizerはひとつになろう』 その結果、2013年2月、日本と米国の国境を越えたディールが決まり、サイアンとNoxilizerは合併し、新たなNoxilizerが誕生した。(郷治氏)

### 約30年ぶり!歴史に残る偉業を達成

日米合併により生まれ変わったNoxilizerは、それから3年後の本年6月1日、遂に、米国FDAより、世界で初めてのNO2による医療機器の滅菌方法の承認を受けた。滅菌因子のFDA承認としては「過酸化水素(H2O2)」に次いで約30年ぶりとなる、歴史に残る偉大な出来事となった。

### アフリカと日本をつなぐ、Digital Grid

DESCRIPTION

次に、UTECがアフリカと日本をつなぎ合わせたグローバルな投資企業である、株式会社Digital Gridを紹介する。

株式会社Digital Gridは、「エネルギーのインターネット化」のために、パワーエレクトロニクス技術、金融取引の技術、インターネットのプロトコルを応用した次世代送電網「デジタルグリッド」の事業化を目指す東大発ベンチャー企業。Digital Gridでは、再生可能で柔軟性のあるエネルギー発電の普及を使命としている。

グローバルといっても、アメリカやヨーロッパやアジアでなく、アフリカのように、ほとんどの地域で電気が通っていない世界もある。アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の地域はブラックアフリカとも呼ばれている。そこでは約11億人が暮らしているが、そのうち3分の2にあたる約7億人は電気を持っていない。しかし、電気がないにもかかわらず、スマートフォンは持っている。彼らは、まるでバケツを持って水のある村まで水を汲みに行くように、スマホを持って、電気がある村まで歩いていって充電してスマホを使う。そこでDigital Gridでは、タンザニアなどの村々にある小売店”キオスク”と連携して、キオスクの屋根に太陽光パネルをつけて自然エネルギーで蓄電する。電気を欲しい利用者は、電子マネーで支払えばその電力を充電できる。貸出可能なLEDランプの充電にも利用して良い。家に持って帰ってLEDランプで明かりをともしてもいい、LEDランプからスマホやタブレットに充電してもいい。その結果、これまで電気のなかった地域でも電化した生活が送れるようになる。(郷治氏)

### 新たなイノベーションモデル

DESCRIPTION

郷治氏によれば、Digital Gridは、今年5月末時点でアフリカのタンザニアを中心に550カ所で事業展開中。さらに郷治氏は、Digital Gridの売上が現在1週間あたり約100万円であり、今年度中に事業の黒字化が予想されることも明かした。

Digital Gridのエネルギー発電は、今日現在、タンザニアなどの電気が通っていないアフリカ諸国の550カ所のキオスクで使われていて、約50万人の人々に電気を届けている。タンザニアの総人口は約5,000万人。仮に3分の2に電気が届いていないとすると、約3,000万人が電気を持たない。Digital Gridは、そのうちの1~2%に電気を届けていることになる。『発展途上国が発展していく際には、従来の先進国と同じモデルだと限界がある』『何もないところに新しいイノベーションを興すならば、先進国のモデルを真似るのではなく、全く異なる方法でイノベーションを作れる』それを実現するのがDigital Gridだと思う。今後、Digital Gridでは、6月末には650カ所、12月末までに1,700カ所、 2017年3月までには2300カ所まで拠点を増加させる予定で、破竹の勢いで成長している。(郷治氏)

### 世界から日本で新しい産業を起こす、MUJIN

DESCRIPTION

その一方で、UTECの投資実績の中には、研究者が米国から日本へ渡ることで誕生したベンチャー企業がある。それが、東大発ロボットベンチャー企業の株式会社MUJINだ。

MUJINは、CTOのデアンコウ・ロセン博士が、自分が米国カーネギーメロン大学で開発した世界で初めてのロボット動作生成言語を使って、自ら実際にロボットを動かしてみたいと考え、ロボット先進国である日本で学ぼうと、東京大学大学院情報理工学系研究科情報システム工学の稲葉研究室研究室に博士研究員として来日したことがキッカケ。その後、共同創業者となる滝野一征氏(CEO)に出会い、莫大な需要がある産業用ロボットの知能化製品開発に転化した。

起業というとシリコンバレーに憧れを抱く人も多いが、日本には、世界から日本へきて起業したいと思ってもらえるような素晴らしい技術がある。シリコンバレーをはじめとした海外に行くだけではなく、足もとを見て、日本に世界を引き寄せて、日本で新しい産業を起こすことも重要だ。(郷治氏)

### 東大を軸に、東大を超える

最後に、郷治氏は、

UTECでは、東大を軸に置きながら、日本国内の大学や研究機関の研究成果の事業化、企業からのスピンアウト、そして、グローバルに国境を越えての研究機関や企業の投資支援を行っている。世界中から良い技術があれば、東大や日本の大学、研究機関、企業のリソースにつなぐ。軸を持ちながらも、特定の大学や組織、国や枠組み、特定の領域を超えて、世界中を縦横無尽に結びつけて、イノベーションを興していくことが大切だと思う。

と、熱意を込めて力強く語った。

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)