投資するポイントは「マーケットサイズ」「経営チーム」「戦略」…CAVインドネシア鈴木氏による投資の流儀

今回は、2011年よりインドネシアでシード・アーリーステージのスタートアップへ投資を行うサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)のインドネシア・ジャカルタオフィス代表である鈴木隆宏氏に、CAVの投資事例をまじえながら「投資するときのポイント」や「投資スタンス」について教えていただいた。

cavtakasan

インドネシアの人口は、約2億5,000万人で中国、インド、米国に次ぐ世界第4位。平均年齢は約28歳で、労働人口は1億人を超える。2015年の1年間の国内総生産(GDP)が4.79%。

また、インドネシアでは、携帯電話の普及率が2011年で97%に達している。米国の調査会社IDCが2月に発表したレポートでは、2015年のインドネシアにおけるスマートフォン出荷台数は前年同四半期比17.1%増加で2,930万台と言われる。

インドネシア市場は、人口、経済動向、そして、スマートフォンの普及によるインターネットサービスの浸透などポテンシャルの高さが伺われ、日本国内だけではなく北米のベンチャーキャピタル(VC)やスタートアップがインドネシアに進出する。

今回は、2011年よりインドネシアでシード・アーリーステージのスタートアップへ投資を行うサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAV)のインドネシア・ジャカルタオフィス代表である鈴木隆宏氏に、CAVの投資事例をまじえながら「投資するときのポイント」や「投資スタンス」について教えていただいた。

#### ー CAVの現状について教えてください。

CAVインドネシアチームは、自分とキャピタリスト2名の3名。その他に随時インターン生がいる。現在、投資件数は約11社。投資先には、2011年に投資したインドネシア最大のマーケットプレイス「Tokopedia」を運営するPT Tokopedia、2014年に投資をしたインドネシアファッションに特化した会員制セールスサイト「vipplaza.com」を運営するVIP Plaza International Pte. Ltd、2016年3月に株式会社Gunosyが株式取得したインドネシアのニュースキュレーションアプリ「Kurio」を運営するPT. Kurio、インドネシアでB2Bマーケットプレイス「Ralali」を運営するRalali PTE、インドネシア版の食べログ「pergikuliner.com」を運営するPT Online Media Gunaなどがある。

#### ー 「投資するときのポイント」について教えてください。

投資するときのポイントは「マーケットサイズ(市場規模)」「経営チーム」「戦略」の3つ。まず、マーケットありきでその事業のマーケットサイズを見る。次に、「経営者1人よりも少なくとも2人以上のチームでやっているか」「経営チームがそのマーケットを攻めるために必要な経験・スキル・パッション・想いがあるか」を見る。最後に、「どのような戦略を持ってそのマーケットをこの経営陣で立ち上げていくのか」を見る。そして、自分たちも仮説を立てた上で、経営陣とディスカッションし、チームの特性をいかして切り口を変えながら、その戦略でお互いに合意できると投資を行う。

#### ー 「マーケット」を見るときに意識していることはありますか。

起業家の中には、自分の事業が該当するマーケットを大きく切り取りすぎてしまう人も多い。例えばファッションECサービスと言ったときに、ファッションリテール業界を該当事業のマーケットとして捉えてしまうと大きすぎる。ファッションECサービスの中でも、フラッシュモデルやソーシャルコマースなど様々なビジネスがある。だからこそ、サービスがリアルにアクセスできるマーケットサイズを見るように心がけている。個人的には、現時点で見えている範囲内だと市場全体の中でここまで行けて将来的にもっとこうすればここまで行けるというように、マクロな視点だけではなくリアルな視点を持つ起業家が好き。投資先の多くは、ファーストコンタクトのときはマーケットの部分がぼんやりしていたが、ディスカッションしていく中で、お互いにマーケットについて調べてマーケットに対する理解が深まった。

#### ー 投資先の中でファーストコンタクトの時から最も「マーケットを見る目」を持っていた起業家はどなたでしょうか。

VIP PlazaのTesong Kim氏。彼は、もともと楽天のインドネシア拠点を立ち上げていた。彼の事業アイデアは「中国のVipshop<NYSE:VIPS>の東南アジア版サービスを展開したらうまくいくのではないか」というもので、ファーストコンタクト時には過去のIR資料や目録見書などからVipshopの事業進捗を調べて中国とインドネシアの市場を比較しながら事業を考えていた。

#### ー 「マーケット」を見るときにはミクロとマクロの両視点で見ることがポイントなのですね。

さらに言うと、インドネシアマーケットにおいて、ビジネスの作り方は異なる点も多いが、マーケットを読む上では「タイムマシーン」だと思っている。米国・中国・インドにおいて「どのような変遷をたどって従来のウェブサービスからスマートフォンサービスへリプレイスしたか」を見る。米国・中国・インドで軌道に乗ったからといって、インドネシアでそのまま通用するわけでもないが、世界の大きい市場のプレイヤーをみながら、インドネシアマーケットで空いているスペースを見ている。また、インドネシアでスタートアップを立ち上げる場合には、タイムマシーン的に他国のモデルをそのまま応用する方が良い場合とそれよりも一歩先に行ったアドバンスモデルで実行した方が良い場合がある。タイムマシーンの視点で世界の大きい市場を見ながら、マクロのデータと各国の人口を比較して、「インドネシアマーケットで1番になればどのくらいの時価総額になるか」を考えている。

#### ー 起業家とお会いするときに意識していることはありますか。

投資をはじめた頃は起業家なら誰にでも会うスタンスだった。しかし、インドネシアスタートアップ市場は玉石混交で、その投資スタンスでは、それぞれの事業領域を理解しきれず自分の仮説を持てなくて受け身の姿勢になりがちだった。そこで、CAVインドネシアメンバーとともに、四半期に一度「この領域に投資をしたい」投資テーマを決めて調査したり、半年に一度「絶対この領域に投資をしたい」投資テーマを決めて、その領域に挑戦する起業家やこれから挑戦しようとする起業家予備軍に会うようにした。投資テーマは、マーケットありきでタイムマシーンを使いながら「マーケット環境的にこの期間で仕込めばいける」と仮説を立てながら決める。万が一、投資テーマを掲げた結果、起業家となかなか会えなかったり、将来ビジネスパートナーになりそうな企業にヒアリングしてタイミングが少し早いと感じたり、仮説が違うと感じた場合には、その投資テーマをペンディングしてタイミングが来る時までストックする。常に投資テーマは3~4個を持っている。

#### ー 起業家を探すときも「マーケットありき」を意識しているのですね。

「マーケットありき」で投資するため「このビジネスがおもしろそう」「この分野がおもしろそう」から起業家を探している。そうすると、事前にマーケットに対する理解が深まり、自分なりに「インドネシアでどのようにそのビジネスを立ち上げるか」を深く考えられる。また起業家と対峙した場合、自分の仮説を持って話し合えて一歩進んだディスカッションになり、議論が活発化する。その結果、起業家から信頼を得られ、さらに起業家の事業に対する本気度も理解できて投資の意思決定がより速くなる。

#### ー 創業時の起業家とお会いするときに、よくお聞きすることはありますか。

創業時の起業家には「どれくらいの規模感のビジネスにしたいのか」「どれくらいの期間をかけてそこに到達するのか」という「どのくらいの目線の高さを持っているのか」を聞く。もちろん、スタートアップをする中で変わるものではあるが、「現時点でどのような目線なのか」を質問する。

#### ー 次に、「チーム」を見るときに意識していることはありますか

チームのバランスを見ている。具体的には、「チームメンバー同士の強みが重ならずに役割分担ができてお互いが補完し合えているか」を見ている。例えば、創業メンバーが2人のチームの場合、動と静が絡み合っているようなイメージで攻めと守りのバランスの良さを見ている。

#### ー これまでお会いした起業家の中で、特に初めてお会いした時の印象が強かった方はいらっしゃいますか。

TokopediaのWilliam Tanuwijaya氏。彼は、ファーストコンタクト時から、Tokopediaの理念に「インターネットを通じてインドネシアの社会をより良くすること」を掲げ、その手段として、「Tokopediaを通じて、誰でもいつでもどこからでもオンライン上で商品を購入、さらにスモールマーチャントがリアルだけでなくオンライン上で収益を上げることでその家族の暮らしを豊かにすることで、インドネシアの国力を向上できる」と本気で話していた。

#### ー 「投資後のスタンス」について教えてください。

それぞれのフェーズや起業家によって異なるが、WhatsAppでグループを作りながら、創業間もないスタートアップの場合には1週間に1回ミーティング、KPIや改善の方向性が決まってエグゼキューションの場合には2週間に1回ミーティングをする。理想を言うと、「投資家がハンズオンはしない方が良い」と思う。その理由は、前提として起業家を信頼・尊敬しており、①24時間事業にコミットしているのは起業家だから投資家がそこに触れるべきでない、②ハンズオンをするとなると手間と時間が掛かるので結果的に投資効率が悪くなるためハンズオンが必要な起業家に投資すべきではない、と考えているからだ。

#### ー そうすると、具体的にどのような投資先支援を行いますか。

1つ目は、起業家が足りていない経験やわからないことに対して自分たちの経験やわかることを提供している。例えばTokopediaの場合、数人の組織が30人、100人へと急成長した。その結果、起業家はこれまで100人の組織を率いた経験がなかったのでマネジメントに悩んでいた。そこで、自分はサイバーエージェントで100人以上の組織をマネジメントメンバーの1人として率いた経験があったので、その時の経験をいかしてマネジメントノウハウや失敗談を共有し、一緒にチームを育ててきた。2つ目は、資金調達の支援を行っている。個人的には「投資家が最もやるべき投資先支援は資金調達のサポート」だと考えている。起業家にとって資金調達は大変なことで、それを支援する投資家を持つことは非常に嬉しいと思う。実際には、投資家の紹介だけではなく、資金調達時のドキュメントのフィードバックなども行う。起業家の伝えたいメッセージと投資家の知りたいメッセージの間でギャップも多いので、投資家の目線を起業家に共有している。

#### ー 最後に、1日の時間の使い方を教えてください。

cavtakasan1

毎月何に何%ずつ使うかを決めている。例えば、今月は、新規投資に40%、既存投資に30%、その他で投資家のリレーションに10%、経理業務に20%など、それぞれの月々に合わせて先に時間の使い方を決める。その後、週に時間の使い方を落として、日時に時間の使い方を落とす。時間の使い方は、他のメンバーとも調整し合いながら決めている。もちろん、時間の中にはコントロールできる時間とコントロールできない時間がある。新規投資の時間でリサーチは時間をコントロールできてアポイントメントはコントロールできないが、既存投資の時間はコントロールできる。月曜日の午前中は自分の中で最も作業が捗るのでドキュメント作りにあて、既存投資先とのミーティングは月曜日午後から水曜日午前、新規投資先とのアポイントメントは水曜日午後から金曜日というように、コントロールできる時間とコントロールできない時間に気をつけながら調整している。理想的な時間の使い方は新規投資と既存投資にそれぞれ30~40%を使いたいと思う。

ー ありがとうございました。