技術移転の父と出会い、そして日本の技術移転の父になる…東大TLOの山本氏が語る、産学連携によるイノベーションの創出

今回、本サイト「Pedia News」では、株式会社東京大学TLO代表取締役社長の山本貴史氏による「産学連携によるイノベーションの創出〜我が国の技術移転の現状と将来〜」についてお伝えしよう。

経済産業省は、4月、現存する大学発ベンチャーが1,773社と2014年度調査時(1,749社)より微増し、黒字化した大学発ベンチャーの割合も55.6%と2014年度調査時(43.1%)より増加していることを明らかにした。

この背景には、TLO(Technology Licensing Organization = 技術移転機関)の存在が大きく関わる。TLOとは、大学の研究者の研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、産と学の「仲介役」の役割を果たす組織のこと。大学発の新規産業を生み出し、それにより得られた収益の一部を研究者に戻すことで、研究資金を生み出し、大学の研究の更なる活性化をもたらすという「知的創造サイクル」の原動力として産学連携の中核をなす。

1998年の「大学等技術移転促進法(大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律)」、2001年の「大学発ベンチャー1,000社計画」が後押しとなり、2014年までにベンチャー1,112社、売上1,600億円、雇用者1万1,000人を創出している。

独立系ベンチャーキャピタルANRIは、9月13日、同VCファンドが運営する技術系インキュベーション#NestHongoで、大学等の研究機関の技術シーズをベースにしたベンチャー創業や知財戦略に関するイベント「Techベンチャー知財戦略勉強会」を開催。

**参考記事**

* **ANRI、東大・赤門前に技術系インキュベーション#NestHongoを始動!「ANRI #NestHongo Program」の公募開始…ANRIの佐俣アンリ氏と鮫島昌弘氏が語る、技術シーズの実用化**

イベントは、株式会社東京大学TLO代表取締役社長の山本貴史氏による講演、大野総合法律事務所の大谷寛弁理士による講演、懇親会という構成であった。

今回、本サイト「Pedia News」では、株式会社東京大学TLO代表取締役社長の山本貴史氏による「産学連携によるイノベーションの創出〜我が国の技術移転の現状と将来〜」についてお伝えしよう。

### 東大TLO代表の山本氏が語る「産学連携によるイノベーションの創出」

#### リクルート出身者が偶然の出会いから東大TLOに参画するまで

東京大学TLOは、東京大学で生まれた技術の産業界への窓口機能を担う組織であり、東京大学唯一の100%子会社。その代表取締役をつとめるのが山本貴史氏だ。

**山本貴史氏(以下、山本氏)**:東大TLOを始める前にはリクルートにいました。リクルートでは、新卒採用の営業をしたり、ワークデザイン研究所で”ヒトはなぜ働くのか?”を研究していました。その後、就職情報誌「リクルートブック」の企画課長をつとめながら、新規事業を担当しました。

#### リクルートの新規事業で産学連携を担当

**山本氏**:新規事業では、リクルートが長年アイデアレベルの状態で手をつけていなかった企画に対して、実際に新規事業として実行するか否かの判断も任されました。責任重大な任務でしたが、その中に「産学連携」というものがありました。僕自身、学生時代に技術移転のゼミで研究していた頃もあり、リクルートはこれまで大学と企業に対してヒトのマッチングを行っていましたが、それを技術に変えればビジネスになるのではないかと思いました。それが産学連携に携わるキッカケでした。今思えばTLOの前進のようなことを思いつきました。

#### 技術移転のおかげで田町駅や品川駅が生まれ変わった

**山本氏**:リクルートの産学連携では、大学の技術を民間企業に移転してきました。僕が担当した仕事の中で一番皆さんが目にするものは、田町駅のプロジェクトです。このプロジェクトでは、横浜国立大学の森下信教授の複雑系の研究を特許にして、JRの関係会社にライセンスして、ヒトが駅構内でどのように動くかをシミュレーターで実験をしながら駅構内のデザインをしました。具体的には田町駅で芝浦側と三田側をコンコースでつなぎました。その他にも、品川駅を始め、最終的には13の駅をデザインしました。

#### 「技術移転の父」と出会い、そして「日本の技術移転の父」になる

**山本氏**:その時の僕の師匠がニルス・ライマースという方です。彼は、スタンフォード大学に技術移転の機関を提案した方で、1969年にスタンフォード大学でOTL(Office of Technology Licensing)を設立しました。大学の技術マネジメント界で成功を収め、スタンフォード大学の他にMIT、UCバークレー校、UCサンフランシスコ校でも技術移転機関の立ち上げに携わり、最終的に4つのTLOを設立しました。

また彼は、技術移転のマーケティングモデルを確立した「技術移転の父」でもあります。特許は出願だけすればいいというものではなくて特許をいかに活かすか、ということが重要です。素晴らしい特許なら出願さえすれば、白馬に乗った王子様が見つけてくれて、ライセンスを受けてくれる。そう信じるケースが、当時のアメリカでも日本でも多くありました。それに対して彼は、それぞれの大学の技術を企業の競争優位やホワイトエリア(空白地帯)に当てはめてマーケティングしました。

日本とアメリカで特許法や大学のシステムなど様々な違いはありましたが、基本的に彼のやり方を日本流にモディファイして、リクルートで産学連携の事業を進めてきました。

当時ニルス・ライマースに初めて相談した時、彼は、日本の環境や産業構造を理由に、日本で技術移転を事業化することについては否定的な考え方でした。しかし、アメリカで実際に彼にお会いしていろいろ話していく中で、僕が彼のことを「技術移転の父」と表現したことがあってとても喜んでくれたんです。メールのやり取りでも毎回必ず「Dear Father of Technology Licensee」と書いて送っていたら、彼も最初は変なヤツだと思ったけれど、嫌な気持ちにはならなかったということで、技術移転について教えようと思ってくれたんです。加えて、ニルス・ライマースは35歳の時にスタンフォードで技術移転を始めるのですが、僕が彼にお会いしたのは今から20年前で僕が34歳の時で「本当に技術移転をやりたいならやり方を教えよう」と言ってくれたんです。

ニルス・ライマースの教えもあって、リクルートの産学連携はかなりうまくいって成功しました。当時、リクルートは今のようなカンパニー制ではなく、ディビジョン制をとっていたこともあり、最年少でディビジョン・エグゼクティブの役職をいただきました。嫁さんからは「やりたいこともできて、出世もできて、あなたは日本で5本の指に入るくらい幸せなサラリーマンだ」とよく言われていました。

#### 東大TLOの前進に営業に行ったはずが・・・東大TLOに参画

**山本氏**:その後、より多くの技術移転を実現しようと考え、東大TLOの前進・東京大学先端技術科学研究センターに営業に行きました。その頃、東大TLOは設立から2年目で、特許は数多く輩出していたのですが、ライセンスに注力できていませんでした。そこで、リクルートが大学の下請けをすることで、ライセンスを増やして、技術移転を実現していきたいと思ったんです。

そういう思いで営業に行っていて東大の先生とも話していたのですが、僕のことを「引き抜こう」と思ってくれたみたいで、リクルートの人間として営業のつもりで東大の先生たちと面談していたのが、気づけば、採用の面接を受けてもないのに内定をいただいたんです。それから、東大の先生たちがリクルートの役員に「山本をください」と直談判してくれて、リクルート側も「山本で良いんですか?」という話になって、最年少ディビジョン・エグゼクティブだったのが、最短ディビジョン・エグゼクティブになって、リクルートを辞めて、東大TLOの代表を務めることになりました。

#### 60億円以上のロイヤリティ収入

**山本氏**:東大TLOは、機動力 x 顧客接点 x 情報発信力に注力しています。現在、総ロイヤリティー収入は60億円以上、総契約件数は3,500件を超えています。

### アメリカにおける産学連携の実例
#### 生涯ロイヤリティ300億円の特許が産学連携の第一人者を創出

**山本氏**:次に、アメリカにおける産学連携の実績を見てみましょう。生涯ロイヤリティ約300億円を得たコーエン・ボイヤーの遺伝子組み換え特許は、コーエン教授とボイヤー教授がハワイの学会でお昼ご飯を食べた時に思いついた発明です。

ただ当初、ボイヤー教授は「特許で稼ぐのは良くない」と否定的でした。当時、発明者の多くが、特許に対して独占のイメージを持っており、特許をとることは技術の普及を妨げると考えていました。今でもノーベル賞受賞者の中には「特許を取らなかったから受賞できて良かった」という人もいますが、僕はこの考え方は違うと思っています。

#### 特許 = 発明者のイニシアチブ

**山本氏**:「特許をとることは、独占ではなく、独占させないこともできる」「特許をとることは、発明者がイニシアチブをとれることだ」ニルス・ライマースはコーエン教授とボイヤー教授を口説いて、スタンフォード大学のTLOで特許にしてライセンスしたんですね。だから、コーエン・ボイヤーの特許は、どこにでもライセンスしました。

### ベンチマークとしてのアメリカの産学連携

#### 発明者は90億円のロイヤリティを獲得

**山本氏**:コーエン教授とボイヤー教授は、この特許のロイヤリティで45億円ずつロイヤリティ収入を得ました。スタンフォード大学のTLOでは、ロイヤリティ収入のうち、最初の15%がTLO、残り3分の1が発明者、3分の1が学部、3分の1が大学に還元される仕組みになっています。

#### 特許から次の大学発ベンチャーが誕生、産学連携の第一人者へ

**山本氏**:そのロイヤリティ収入をもとに、ボイヤー教授が作ったものがバイオベンチャーのパイオニア「ジェネンテック(Genentech)」です。「大学教授たる者は特許で儲けるのは良くない」そう話していた発明者が、大学発ベンチャーをつくって産学連携の第一人者となりました。

#### グーグルは当初自分たちで起業する予定ではなかった!?

**山本氏**:グーグルも、最初の特許はスタンフォードのTLOから出願されました。グーグルは、当初会社をつくることを前提としていたわけではありませんでした。

#### グーグルの最初の特許は、ヤフーもネットスケープも興味がなかった

**山本氏**:グーグルの最初の特許は、ヤフー(Yahoo)やネットスケープ(Netscape)にライセンスを提供したいと考えていました。ただ、誰もライセンスを受けてくれませんでした。

なぜかというと、当時1995年を振り返ってみると、日本では自分のメールアドレスを持つ大学生は1%、パソコンを持つ大学生は0.3%で、図書館に行けばインターネットが使えるような時代でした。

グーグルの最初の特許は「同じ検索キーワードを3つ入れる人がいたら、ヒット件数順に出す」というものでしたが、そんなことしなくてもキーワードを1個入れたらほとんどの場合で目的地にたどり着けていました。

そのような時代背景もあって、検索エンジンの性能を上げることには、ヤフーもネットスケープも関心がありませんでした。それよりも「どうやってマネタイズするか」にしか興味がなかったんです。なので、ライセンスを受けられずに、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは自ら創業することになりました。

#### イノベーションは「タラレバ」

**山本氏**:これは、ベンチャーの分岐点でもありますが、もしヤフーやネットスケープがライセンスを受けていたら、世界最強の検索エンジンの会社になっていた可能性が高いわけですよね。そう考えると、イノベーションには「タラレバ」が多くあります。

#### 特許明細書がイノベーションの鍵を握る

**山本氏**:加えて、これは「よく特許をとれた発明だ」ということです。当時は、ワンクリックが特許になった時代でもありましたが、特許明細書がよくなければ特許にはなっていなくて、グーグルもできていなかったかもしれません。特許明細書はとても重要です。

#### 産学連携 = イノベーションのエンジン

**山本氏**:このようにアメリカでは、産学連携・大学発ベンチャーがイノベーションのエンジンになっています。

これは、アメリカのみならず、日本でもできると思っています。実際、帝人、TDK、味の素、荏原製作所も大学発ベンチャーです。これらの企業は、産学連携もTLOもない時代に誕生しました。今は環境も整備されて大学発ベンチャーも生まれやすくなった時代だと確信しています。また私が東大TLOにジョインした20年前は、大学の教授も「特許に興味がない」「大学発ベンチャーを作ることはとんでもない」と話していましたが、今では大学の教授が「ベンチャーを作りたい」と話してくれてます。時代が変わってきたのだと思います。

### アメリカの産学連携の実態
#### アメリカでは毎年2万5,000件の発明が誕生

**山本氏**:次に、アメリカの産学連携の実態を見てみましょう。アメリカでは、毎年2万5,000件の発明が生まれています。ライセンス件数は2013年時点で5,200件でしたが、現在は7,000件に上ります。ロイヤリティ収入は2,600億円以上です。

#### 大学の技術を使った製品の売上は20兆円!?

**山本氏**:また、大学の技術を使った製品の売上は合計10兆円を超えています。これにはグーグルは含めていません。グーグルだけでも7兆円の売上があるので、もっと大きな金額になります。大学の技術を使った製品のインパクトの大きさがわかると思います。

#### 産学連携は、アメリカの最新トレンド

**山本氏**:さらに、大学の技術を使った新製品の数は2013年の591件から翌年2014年には900件、大学発ベンチャー起業数は2013年の818社から翌年2014年には850社になりました。その他、アメリカ、イギリス、ロシア、デンマークなどでは、大学発ベンチャーの倒産率が一般ものに比べて遥かに低くて寿命も長い、という研究結果も出ています。

これらのデータからも、トレンドとして、産学連携・大学発ベンチャーが増えていることがわかると思います。

### 日本における産学連携の実態
#### 産学連携は、日本でもトレンドの波に乗る

**山本氏**:もちろん、日本でも産学連携はトレンドです。発明数は横ばいですが、ライセンスもロイヤリティも増加しています。

#### オープンイノベーションの波が産学連携を後押し

**山本氏**:次に、アメリカと日本で新規ライセンス件数を比較すると、実は日本も右肩上がりなんです。

アメリカでは、1991年から2014年の27年間で1000件から7000件まで増加して7倍になりました。この要因は、大学の数が7倍になっているわけでも、大学の予算が7倍になっているわけでも、教員数が7倍になっているわけでもありません。オープンイノベーションで大学の技術を生かそうとする会社が7倍になっているということです。

一方、日本は、オープンイノベーションがアメリカやヨーロッパに比べると遅れているとはいえ、2005年から2014年で9年間で3倍に増加しています。そういう意味で、これは間違いなくオープンイノベーションの波が来ていると思います。「大学の技術で次の世代の技術を作っていきたい」オープンイノベーションの波が来ていると思います。

**山本氏**:ライセンスの内訳をみると、アメリカは、大学の技術のうち15%が大学発ベンチャー、50%が中小企業、35%が大企業です。つまり、アメリカの大学の特許の3分の2がベンチャー、中小企業へライセンスされています。この割合は過去10年間ほとんど変わっていません。

それぞれ特許の独占状況をみると、大企業は3分の1、中小企業は60%、ベンチャーは91%が特許を独占しています。ベンチャーや中小企業は技術が競争優位性と密接に関わるので、独占権を付与しています。この結果から、大学発ベンチャーが、特許の独占権によって、いかに競争環境を勝ち抜いているかがわかると思います。

一方、日本の大学の技術のベンチャーに対するライセンスの割合は、2009年で3%、2015年で0.5%と下がっています。ここが大問題です。

東京大学の特許は、アメリカの大学の技術のライセンスの割合と近しく、ベンチャーにライセンスされているものが圧倒的に多いです。

### 日本でも産学連携によるイノベーションは始まりつつある

#### 東大発ベンチャーペプチドリームの躍進、「日本版ジェネティック」への期待

**山本氏**:最後に、日本における産学連携の事例を見てみましょう。代表的な事例として、ペプチドリームをご紹介します。ペプチドリームは「日本版ジェネティック」のように産学連携の第一人者になるかもしれません。

ペプチドリームは、2005年、現 理学系研究科化学専攻の菅裕明教授から東大に発明届けがありました。東大TLOの担当者が菅教授から発明の話を聞いて「これはすごい」と感じて、「会社を作りましょう」と提案しました。もちろん初めは、菅教授も会社を作ることを想定していたわけではありませんが、再び私も担当者と一緒に起業を提案して、翌年2006年に創業しました。そして、設立から7年目の2013年に東証マザーズに上場し、昨年2015年には東証一部に市場変更しました。2015年には、全上場企業の中で最も株価を上げた企業としても注目されました。

#### ペプチドリームの成功は、海外大手企業とのアライアンス

**山本氏**:ペプチドリームの成功には、海外の大手企業とのアライアンスが鍵を握りました。ペプチドリームでは、ノバルティス(NOVARTIS)、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)、ジェネンテック(Genentech)をはじめ、世界のそうそうたる大企業とアライアンスしています。

当初ペプチドリームでは、日本の会社とアライアンスの話を進めていましたが、なかなか決まらずに難航していました。その間、国際的な製薬会社として世界でも有名なノバルティスなど海外の企業がペプチドリームに目をつけてくれてアライアンスできました。

#### 技術系ベンチャーだからこそ、世界に目を向けよう

**山本氏**:何が言いたいかというと、技術系ベンチャーは日本の市場ばかり見ていてもしょうがないんです。例えば、日本で全然話題になっていなかった映画も海外で賞をとった途端に有名になって話題になりますよね。それと同じで、技術系ベンチャーで起業するなら、海外の方が技術に対して評価が鋭いし、本当に良い技術なら海外の方が日本よりも早く受け容れてくれるかもしれません。

また海外は、チーフテクノロジーオフィサー(Chief Technology Officer = CTO)チーフサイエンスオフィサー(Chief Science Officer = CSO)のように、技術担当の役員が1人で決済ができます。日本のように取締役会で役員みんなの決議を取るのとは違います。そういう意味では、技術系ベンチャーなら初めから海外の大手とアライアンスすることに目を向けることは良いかもしれません。

東大TLOでも、ライセンス先としては海外の方が日本よりも伸びているのが実態です。

ぜひ皆さんには、技術系ベンチャーで世界に挑戦してほしいと思います。

ー ありがとうございました。