【寄稿】テクノロジースタートアップの時代

今回、Pedia Newsでは、独立系ベンチャーキャピタルANRIの鮫島昌弘氏による寄稿記事を紹介する。

今回、Pedia Newsでは、独立系ベンチャーキャピタルANRIの鮫島昌弘氏による寄稿記事を紹介する。

**ANRI 鮫島 昌弘氏**

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修了。総合商社に入社後、ベンチャーキャピタルを経て、ANRIにて創業前のプロジェクトチームや創業直後のスタートアップを対象にインキュベーション事業を担当。

### テクノロジースタートアップの時代

出典:a16zが投資するバイオベンチャー[Freenome社のイメージ図]

2015年6月に日経新聞にて、「東大発ベンチャー200社突破 企業価値1兆円超」との報道がなされるなど、現在、大学等から創出されるテクノロジースタートアップへの注目度が日本でも上がってきています。
そこで、スタートアップ大国であるアメリカでのテクノロジースタートアップの歴史を紐解きながら、今後ANRI(#NestHongo)にて提供していくことについて述べたいと思います。(ここで言う「テクノロジースタートアップ」とは、日本で言う「技術系/大学系スタートアップ」のことで、特許やテクノロジー、エンジニアによって構成されるスタートアップを意味しています)

### アメリカでは1960年代後半からテクノロジースタートアップへ投資するVCが設立

1969年に設立されたMayfield Fund(Mayfield)の共同創業者であるトミー・デイヴィスは大学の新技術や研究成果に目をつけ、スタンフォード大学と顕密な関係を構築した、いわゆる大学初ベンチャーに投資するベンチャーキャピタルの走りだと考えられています。 
その後、Mayfiledは提携大学を拡大し、現在ではスタンフォード大学、イェール大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学、カリフォルニア工科大学、カーネギーメロン大学など、全米屈指の大学と提携を拡大しています。最初のファンドサイズは約$3M(約3億円)からスタートし、これまでにファンドレイズした金額は$1.5B(約1,500億円)にまでのぼります。

次に、東海岸のMITと密に協力して、新技術や研究成果の実用化を進めたのはチャールズリバーベンチャーズ(CRV)です。創業者の一人であるジャック・カーターはスタンフォード大学出身で、大学時代の友人であるトミー・デイヴィスらとMayfieldの設立に取り組む傍ら、MITの学長の特別補佐を務めていた時にMITの技術の実用化を担う、CRVを1970年に設立。現在までにFunds Raisedした金額は約$1.4B(約1,400億円)にのぼります。

1980年代に入ると、大学や国立研究所への国からの投資が産業界に十分フィードバックされてないという懸念から、議会がスティーブンソン・ワイドラー法(技術移転を促進する為、国立研究所に技術移転組織を設置させ、一定の支出を義務付ける法律)とバイ・ドール特許法修正案(1980年特許商標法修正条項の通称。政府支援を受けた大学の研究・開発から生じた発明の権利は従来政府に帰属していたが、これを大学のものとし、さらに民間企業に対する特許使用の許諾を容認することにより、研究者に動機を与え、民間への技術移転を活発化させた)が可決されました。これを受け、スティーヴ・ラザラスは、シカゴ大学とアルゴンヌ国立研究所からの技術移転を目的として、1986年にARCHベンチャーパートナーズを設立。9百万ドル(約9億円)で最初のファンド設立以降、シアトル、サンフランシコス等へも活動の場を広げ、現在までにFunds Raisedした金額は約$1.8B(約1,800億円)となっています。

### 現在、インターネット・ソフトウェアのみのイノベーションは終わりつつあり、他の産業に溶け込んでいく

このようにアメリカでは1960年代後半から1970年代前半に大学や研究機関の技術をベースにしたテクノロジースタートアップへの投資の歴史は始まり、インターネットやソフトウェア業界を中心に活躍していたベンチャーキャピタルもテクノロジー領域に進出し始めています。

例えば、2015年初頭にユニオンスクエアベンチャーズの著名投資家であるFred Wilson氏の「インターネットのイノベーションは終わりつつある」という発言を行いました。彼自身も、2014年以降、創薬をはじめ、インターネット分野とは異なるものに投資しています。

他にも、Andreessen Horowitz(a16z)のMarc Andreessenが2011年に”Software is eating the World”と主張して以降、テクノロジースタートアップへの投資を開始し、2015年11月にはスタンフォード大の教授として化学と構造生物学を教えてきたVijay Pandeをファンド責任者に招き、AH Bio Fundと呼ばれる約200億円のバイオ向けファンドを組成しました。

また、AirbndやDropboxなどのソフトウェア関連の有力ベンチャーを輩出してきたYコンビネーターは2014年頃からバイオ、エネルギー、ハードウェア等のテクノロジースタートアップへの投資が増加しています。最近のバッチではテクノロジースタートアップの割合は約19%で、バイオ系のテクノロジースタートアップの増加が顕著です。2015年10月には、実用化までに長時間かかる事業や、一社単独では事業化できないような事業のために、非営利の研究機関 YCR(Ycombinator Research)を設立したことも話題になりました。

実際、これらの流れを受け、2012年頃から創薬やバイオ(上図)、ハードウエア(下図)などのテクノロジースタートアップへの資金流入が急激に増加してきています。

産業毎のシリーズAで資金調達した金額の推移。縦軸の単位は$M(億円)。出典:[PitchBook]

ハードウェアスタートアップが資金調達した合計金額(棒グラフ)と1億円以上調達したスタートアップの数の推移(折れ線グラフ)。左の縦軸の単位は$M(億円)、右の縦軸の単位は社数。出典:Tech Crunch, 2016/09/24 “[転機を迎えつつあるハードウェアスタートアップへの投資” ]

### 日本はアメリカに約20年遅れる形で法整備された。これからが勝負

一方、日本ではアメリカの産学連携の結果を踏まえ、約20年遅れる形ではあるものの1999年に日本版バイ・ドール法が整備され、2001年に経済産業省により大学発ベンチャー1000社計画が発表され、大学発ベンチャーを中心としたテクノロジースタートアップへの関心は高まりました。しかし、残念なことにリーマンショックなどの影響もあり、当初想定していたような結果が出ず、期待値が下がっていたのが2010年頃だと思います。その後、複数のテクノロジースタートアップの活躍もあり、大学や研究機関発のスタートアップに投資するベンチャーキャピタルも拡充し、支援体制が着実に整い始めています。

出典:文部科学省  “[平成26年度大学等における産学連携等実施状況について“]

### 日本におけるテクノロジーシード投資の必要性

テクノロジースタートアップの事業フェーズを考えてみますと、
基礎研究・技術をベースに起業→POC(Proof Of Concept)の確立→VC等からの資金調達
という流れが多いですが、アメリカではPOC確立の為の資金供給者がエンジェル投資家やYコンビネーター等のアクセラレーター、GAPファンド*等のプレイヤーが多い一方、日本ではまだPOC確立までの資金供給者やテック系アクセラレーターがごく限定的である為に、(1)チームビルディング、事業をブラッシュアップする為のインキュベーション・アクセラレーション機能、(2)資金供給機能、が不十分であると感じています。
(*GAPファンド:寄付金や大学の自己資金を財源とした、直接のリターンを求めない投資。アメリカの主要大学の多くで取り入れられている。)

実際、先日も大学発ベンチャーの社長とお会いしてきたのですが、POCを固める為の初期の研究開発費約1,000万円を集めるのが最も苦労したと仰っていました。
そこで、ANRIでは本郷三丁目に技術系インキュベーション施設『#NestHongo』を設立し、これから起業を検討しているチームや起業直後のスタートアップに無償でオフィスを提供しています。また、定期的に勉強会(知財戦略やクラウドファンディング等)や交流会を開催し、テクノロジースタートアップの底上げを図っています。

そして、8月に科学技術振興機構「大学発新産業創出プログラム(START)」の事業プロモーターとして採択を受け、起業する前の段階のポテンシャルの高い大学等の技術シーズの事業化への取り組みを開始しました。

更には今後、テクノロジースタートアップがPOC確立する為の積極的な資金供給や、ポスドクを始めとした若手研究者の研究を発明にまで引き上げるプロジェクト、技術シーズと起業家候補のマッチングイベントなどを行い、テクノロジースタートアップのエコシステムの拡充に取り組んで参ります。

技術シーズの実用化に関するご相談や起業後のテクノロジースタートアップで、
インキュベーション施設「#NestHongo」についてや、資金調達等のご相談がございましたら、以下までご連絡下さい。

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