「プロダクトドリブンでモノ作りをたのしめる会社をつくりたい」アスツール株式会社代表取締役加藤氏が語る、起業と『Smooz』誕生の秘話

今回、Pedia Newsでは、アスツール株式会社代表取締役社長の加藤雄一氏に、インタビューを実施し、起業と『Smooz』誕生の秘話を伺った。

プロダクトドリブンでモノ作りをたのしめる会社をつくりたいーーー。ソニー、楽天で経験を積み、まさに機が熟した今、新たに起業家として人生を歩みはじめた。

2016年3月にアスツール株式会社を創業した、加藤雄一氏。加藤氏は、2003年、早稲田大学商学部卒業後、新卒でソニーに入社。ソニーでは、新卒で生産管理を担当し、2007年よりソニーモバイルコミュニケーションズでXperia(エクスペリア)のUXプランナー、2012年より楽天でモバイル戦略チームのマネージャー、Viberのプロダクトマネージャーなどを歴任。

### イノベーションはソフトウェア産業から生まれる

もともと、高校生の頃(早稲田大学高等学院出身)からガジェットやネットワークが好きな文系学生でした。Linux(リナックス)サーバーでよく遊んでいて、Linuxの開発体制に関する論文を書いたところ、文部科学省と産経新聞の論文コンクールで優勝してアメリカに行かせてもらったりしていました。

僕が学生の時はまだインターネットが黎明期の時代でした。一部上場企業の中でも唯一ソニー1社だけがインターネットを推進していたくらいインターネットが真新しい時代だったんですよね。当時、Palm Pilot(パームパイロット)に夢中で「手元にあるこのすごい端末とインターネットを組み合わせればすごいコトができそう」「インターネットに関わる仕事をしたい」「ずっと働くなら好きなコトを仕事にしたい」と思って、新卒でソニーに入社しました。ソニーの面接ではPalm Pilot上で英語教材を提供するサービスをプレゼンしたり、当時から気持ちとしては「アントレプレナーになりたい」と感じていました。ただ、やはり人間は周囲の人に影響されますよね。当時、僕が属していたコミュニティは、起業よりも就職する方が多く、就職することが当然だと思っていました。だからこそ「今ある選択肢の中から自分のやりたいコトができそうなおもしろい会社を選びたい」と考えていました。今思い返せば、狭い視野の中で選択していたのかもしれませんね。

新卒でソニー入社して、一番初めに担当したのは「生産管理」でした。工場に張り付いて管理するのですが、これがおもしろかったんです。この時に「在庫持つのは本当に大変だ」というのを実感しました。エレクトロニクスは1つの事業を作るのが時間も投資規模も大きいんですよね。金型から試作機を、何年という月日をかけ、莫大な金額を投資し、人数も大人数が必要で組織的に動く必要があります。一方、ウェブサービスは、在庫を持たず、少人数で新しいモノを作り出せて、世界数十億人という大きな顧客層にリーチできますよね。エレクトロニクスの大変さを実感できたことで、「イノベーションはソフトウェア産業が起こしやすい」「ウェブサービスは非常に魅力的だ」と思うキッカケになりました。【加藤氏】

### プロダクトドリブンでモノ作りをたのしめる会社をつくりたい

その後、加藤氏は、2012年に楽天へ転職。楽天では、モバイル戦略課で横断的に楽天のモバイルプロダクトをコンサルしながら『楽天ゲートウェイ』を立ち上げた他、『Viber(バイバー)』のプロダクトマネージャーを担当。そして、2015年3月に楽天を退職し、約1年にわたり起業準備を進め、2016年3月にアスツールを創業した。

楽天でいろいろな経験を積ませていただいて人脈もできて「そろそろ自分でやりたい」「プロダクトドリブンでモノ作りをたのしめる会社、開発者にとって本当にたのしい会社を作りたい」と思って、まさに「機が熟した」タイミングで辞めました。

日本には、グーグルやフェイスブックのようにエンジニアなら誰もが憧れるような会社がまだ少ないと思うんです。それは、会社の成り立ちが大きく関係していると考えています。「お金を稼ぐために生まれたのか」「プロダクトを作るために生まれたのか、プロダクトを作るのが楽しいからそれを続けるためにお金を稼ぐのか」お金もプロダクトもどちらも大切なのだけれども、どちらを先に持ってくるのかというDNAの違いが大きいと思うんです。成功するかはわからないけれど、「本当の意味でプロダクトドリブンでモノ作りがたのしめる会社をつくりたい」と思ったことが起業の大きなキッカケになりました。

僕の場合は、事業も仲間も決めて辞めたわけではなかったので、辞めてから約1年は「誰と何をするか」を考えながら、いろいろサービスを作っていました。やはり演繹と帰納のように、事業プランだけ作っても手触り感がないので「作りながら考えよう」と思い、いろんな人を巻き込みながら一緒に作っては壊してというのを繰り返していました。そうこうしているうちに1年があっという間に経ちました。【加藤氏】

### 次世代ブラウザ『Smooz』の誕生秘話

加藤氏率いるアスツールは、現在、デザイナー、エンジニア(クライアント側)の3名で、新UI・人工知能・ソーシャルを融合した次世代ブラウザ『Smooz』を開発・運営する。『Smooz』は「考え抜かれたタブ操作」「文字入力しない検索」「スマートブックマーク」の3機能を持つ。

『Smooz』は、すごいビジネスプランがあってすごいプロトタイプを先に作った、というよりも、プロダクトファーストで手探りでいろんなモノをガチャガチャ作りながら「これは本当に楽しいかどうか」を検証して、今の形にたどり着きました。

実は、去年の12月くらいに一度似たようなコンセプトのモノを作って壊して作り直して今に至ったんです。当初、検索単語予測に特化したアプリを作ろうとしていたのですが、「これだけだと何かモノ足りない」「もっとインタラクションの工夫が必要」と思って、年明けからいろんなオープンソースライブラリを使って数時間で作れるような試作を何個も作りました。その中の一つに、今のタブ操作の原型があって「タブをめくって操作するのは今の時代なら非現実的でない」と思いました。というのも、今はたくさんのウェブビューをスマホで並べても大丈夫なくらいにメモリが増加しており、さらにモバイルに最適化されたウェブサイトが非常に多いです。実際に試作して「今の時代ならこのUIはアリなのではないか」と感じたので、「これをちゃんと作ろう」と思って試作を捨て本格的に作り始めました。

チームとして本格的に動き出したのは4月からですね。1番最初に協力してくれてたのはデザイナーでした。彼は元楽天の同僚です。楽天では一緒にプロジェクトを担当していたこともあるのですが、非常に気が合ってプロダクトの見方も似ていたので「一緒にやりたい」と思って誘いました。エンジニアは、去年(2015年)「try! Swift」でたまたま隣に座ったことが出会いで、本当にイベントに行ってよかったと思いました(笑)その後、僕が主催するもくもく勉強会にも何度か参加してくれて、一緒にコーディングしたりエンジニアリングを教えてもらったり飲みに行ったりして「一緒にやりたい」と思って誘いました。転職するときも感じていたのですが、やはり一緒に働いてみないとわからないと考えていて、結局面接だけでは採用できないと思うんです。4〜5回面接で会うよりも、1回面接して良いと思ったら4〜5回一緒に働いてもらってお試し期間を設けた方が、お互いにとってミスマッチがないと思うんです。【加藤氏】

### 楽天『Viber』から学んだ、開発者にとって最適な開発スタイル

アスツールは、加藤氏が起業当初に思い描いていた「プロダクトドリブンでモノ作りをたのしめる会社」を今まさに体現している。開発にはどのような工夫が施されているのだろうか。

クライアント側は全てSwift、サーバー側は自然言語処理の処理系がPython、API・インターフェイスはRubyでSinatraというフレームワークを使っています。ソーシャルブックマークはRuby on Railsを使って、MySQLとAWSでいうEC2とRDSを使って伝統的な作り方をしています。また、ドキュメントは『esa.io』を使って、そのリンクを『Trello』に貼って情報を整理しています。

楽天で『Viber』を担当して一番によかったと思うことでもあるのですが、西海岸やイスラエルの企業は『Atlassian』一色のドキュメントドリブンの開発スタイルが多いんです。『Viber』の場合は、『JIRA』と『Confluence』を使ってプロダクトスペックとテックスペックを管理していました。プロダクトスペックは、「なぜ作るか」「何のために作るか」「どのKPIをあげたいか」「どのように作るか」など5W1Hの情報と「iOSのこの新しい機能を使って実現する」などテクニカルインサイトが合わさった企画書のようなものです。一方、テックスペックはプロダクトスペックにリンクされていて「どのように実現するのか」にフォーカスされています。『JIRA』からこの2つにリンクが貼られていて、「いつどのタイミングでジョインした人でも『JIRA』を見れば今1番何が重要事項か分かって詳細を見ればプロダクトスペックとテックスペックがある」という整然とした流れがあって非常に良い開発スタイルだと思いました。後から入ってきたメンバーにもすぐに情報共有できるメリットもありますが、それ以前にドキュメントを作ることによって思考が整理されることが非常に良いと思いました。【加藤氏】

そう語る加藤氏は、アスツールで開発者にとって心地よい開発環境を実現しているがゆえに、これまでにない心地よい操作感・機能を持つ『Smooz』が誕生させることができたのだろう。

### ユーザーとの対話から生まれる、一体感

『Smooz』は、リリース時に国内App Storeでフューチャーされ、リリース開始からわずか1週間で2万ダウンロードを突破した。その勢いもさることながら、アップデート回数も高頻度で行われている。これについて、加藤氏は、

現状、ユーザーフィードバックによるアップデートが全体の約8割を占めます。もともとリリース開始1か月はユーザーフィードバックに集中しようと考え、アップデート回数も意識的に速く行うようにしています。ユーザーに「先週レビューしたことをもう対応してくれてるんだ」と感じてもらえるようになれば、対話感が出てユーザーにも一緒にサービスを作っているような一体感を味わってもらえると思うんです。開発中も、アプリ内でユーザーから何かチャットが来ればそれを優先して応えるようにしています。平均応答時間は約5分以内だと思います。【加藤氏】

と述べ、アプリアップデートとレビューに対して積極的に対応することで、ユーザーとの一体感を実現したいことを明かした。

### シードで1,500万円を資金調達、最後まで悩んだ資金調達の裏側

また、アスツールは、8月に、シードラウンドとして、独立系ベンチャーキャピタルSkyland Ventures、『みんなの就職活動日記』『なかのひと』『User Insight』などを生み出した株式会社ユーザーローカル代表取締役の伊藤将雄氏、『MERY』を運営する株式会社ペロリ代表取締役の中川綾太郎氏から、1億円のバリュエーションで総額1,500万円の資金調達を実施している。

* 参考記事:**Skyland Ventures、新UI・人工知能・ソーシャルを融合した次世代ブラウザ「Smooz」のアスツールへ出資**

Skyland Venturesの木下さんと最初に会ったのは5月でした。木下さんはとても男前な方なので「今すぐ入れます」と言ってくれていたのですが、僕は最後の最後までVCマネーを入れるか悩んでいました。当時楽天のコンサルも続けていたのですが、正直、自分の貯金を崩しながらコンサルを掛け持って続けることもアリなのではないかと思っていました。VCマネーを入れることは、やはり非常に大きな責任が生じます。僕らのサービスはC向けのアプリサービスで、メディアのように積み上げて頑張れば頑張るほどキャッシュが積み上がるようなモデルではなくて、当たるか当たらないかのハイリスク・ハイリターンのモノです。だからこそ、手探りで作っていたものがビジネス化できるかどうかというところで最後まで迷っていました。

いろいろ悩んだ末、「ハイリスク・ハイリターンなモノだからこそ僕らのサービスの価値を理解してくれる方のリスクマネーを入れてもらっても良いのではないか」「本気でやるなら100%フォーカスしてどこまで伸ばせるのかチャレンジしたい」「プライベートプロジェクトよりも背中を押してくれる人がいた方がスケールする可能性が高まるのではないか」と考えて出資していただくことを決めました。エンジェルで出資していただいている中川綾太郎さんにも相談したのですが、誰かと約束することで自分のコミットメントが発生して自分の力をより引き出せるのは厳しい反面、事業のためには良いと思いました。【加藤氏】

日本から世界へ、トップニッチを狙う
最後に、今後の展望について、加藤氏は次のように語った。

もともと『Smooz』は「より効率的により多くの情報を取りたい、情報強者のような方」の利用シーンを想定していました。実際、利用者のうち半分以上がエンジニアの方にご利用いただいています。

僕らは「今のブラウザが80~90%の方にとって正解なモノだ」と考えています。デスクトップのブラウザもInternet Explorer(インターネットエクスプローラー)やSafari(サファリ)などがプリインストールされている中、サードパーティブラウザを利用する方は全体の約10%程度です。『Smooz』ではスマホブラウザという大きな市場の中で、トップニッチになることを狙いたいと思います。日本だけでは十分なマーケットをつくりきれないと考えているので、今後は英語対応も検討しています。『Smooz』は、サービスの特性上、端末スペック・回線速度がある程度持ち合わせていることが前提条件としてあります。「同時にたくさんのリソースをジャブジャブに使って良いユーザー体験を作ろう」という贅沢プロダクトなので、基本的には英語圏でITインフラの整った地域への進出を検討しています。

もちろん、Androidアプリもリリースします。マーケットドリブンで「iOSアプリでプロダクトマーケットフィットを取れてオプティマイゼーションできた」という状態になってから、Androidアプリもリリースしたいと考えています。

さらに、今後は、コンセプトをずらすことなく、ユーザーエクスペリエンス損ねない形で機能を追加していきたいと考えています。「アプリを開けた瞬間はシンプルで今までと変わらない、だけど使ってみるとできることが増えてる」というのが理想です。

例えば、近日追加したいと思っている機能が「ブックマークの固定機能」です。いつも見るページがあらかじめ固定で表示されるようになれば、自分だけの新しいメディアみたいなモノが作れると思うんです。他にもたくさんアイデアはロードマップとして考えているので、楽しみにしていてください。【加藤氏】

### まとめ

取材中、開発に対するこだわりと自身のサービスにかける想いを、目を輝かせながら時折笑顔を見せて語ってくれた加藤氏。ソニーでのエレクトロニック産業でのモノ作り、楽天でのソフトウェア産業でのモノ作り、これらを経験してきた彼だからこそ、開発者にとって心地良い持続可能な開発環境を導き出すことができたのだろう。加藤氏をはじめとしたアスツールチームがモノ作りを楽しみながら開発する『Smooz』が、日本から世界へ飛び立つ次世代のスマホブラウザとなる日をこの目で確かめたい。

次世代ブラウザ『Smooz』

アスツール株式会社